防衛装備庁がこのほど、2017年度のデュアルユース(軍民両用技術)研究支援制度への応募・採択状況をまとめた。記者が注目したのは、大学からの応募が20件超と前年並みを維持した点だ。同制度を巡っては、日本学術会議が「軍事研究」への協力だとして否定的な見解を今春公表。これを受けた大学に属する研究者の対応が注目されていた。ただ、17年度の結果からは、研究資金獲得の手段として、一定の支持があることが浮き彫りとなった。
ロボットやAIなどの研究を防衛装備庁が支援
このデュアルユース研究支援の取り組みは、防衛装備庁が15年度に始めた「安全保障技術研究推進制度」。ロボットやAI(人工知能)、新素材や通信など様々な分野での技術革新は民生用と防衛装備の垣根を従来以上に薄めつつある。発想次第でこれらの技術は競争力のある民生品にも活用でき、防衛装備にも同様のことがいえる。そこで防衛装備庁はデュアルユースに関する有望な基礎研究について、研究予算の支援に乗り出している。
対象は大学や民間企業、公的研究機関。防衛省自前の研究機関や伝統的な防衛産業に基礎研究の段階からすべて委ねるよりも、すでに知見のある人に任せたほうが効率的だからだ。15、16年度の2年間で153件の応募があり、うち19件の研究を採択。手ごたえを感じた防衛装備庁は17年度は予算規模を前年度の20倍近い110億円に増やした。
装備品の開発で新素材などデュアルユース技術の重要性が高まっている(航空自衛隊提供)
一方で、防衛装備庁の政策に対しては、戦前の歴史を踏まえ「大学が軍事研究の道具にされる」といった懸念を表明する大学の研究者が少なからずいた。デュアルユースはその名の通り、汎用性の高い技術。直接的に防衛装備の研究に従事するわけではないが、新たな制度にどう向き合うべきか。こうして学会の代表機関とされる日本学術会議で昨年来、学術研究と安全保障の関係について委員会を設けて賛否両論を戦わせた。
学会が参加に否定的な見解をまとめる
結果、慎重派が主導する形で17年3月、「軍事的安全保障研究に関する声明」を学術会議として公表。声明では政府による研究への介入などに警戒感を示し、「研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」と指摘した。研究の適切性などを研究者サイドで独立して判断するガイドラインの必要性も訴えた。
「声明」は学術会議で最もランクの高い対外的な意思表明と位置付けられており、安全保障技術研究推進制度への参加に対し、かなり否定的なニュアンスを打ち出したわけだ。制度に反対する人への説明責任など、参加を希望する研究者へのプレッシャーとなることが想定される。仮に大学との関係が絶たれれば、在野の有望研究の取り込みを図る同制度の目論見は半ば骨抜きとなるだけに、17年度の応募状況が注目された。
17年度の公募は3月末から5月末まで実施。採択結果と併せてこのほど発表された内容によると、104件の応募があり、大学は1件減の22件、公的研究機関が16件増の27件、企業等が45件増の55件だった。
2017年度の防衛装備庁デュアルユース研究への応募状況
応募総数(104件)に占める大学の比率
企業の増加が目立つが、こうした経緯を経ても、大学がほぼ前年並みを維持したことが記者には興味深かった。同制度への賛否はともかく、大学から根強い応募があった背景には、文部科学省からの予算抑制などで研究開発資金の確保が難しくなっている点が影響しているとみられる。
ちなみに応募の中から採択されたのは14件。内訳は研究代表者でみると、企業が三菱重工業や富士通、IHIなど9社、公的研究機関が5機関だ。代表者のもとでの研究分担先としては大学5校となっているが、分担先の名称までは現時点では公表されていない。
具体的な採択内容としては、例えばIHIの場合、「従来の耐熱温度を超える高温耐熱材料に関する基礎研究」。新たな航空エンジンに使えそうな新素材の開発という。IHIの担当者は同制度について「ある程度の技術領域の指定はあるものの、萌芽的な技術テーマに対して効果的な制度」と評価して応募した。
幅広いコンセンサスへ議論継続が必要
日本を取り巻く安全保障環境はますます厳しさを増している。周辺国に対する抑止力を維持するうえで、デュアルユースにも目配りして防衛装備に関する一定の研究開発は必要だろう。ただ、その具体的な方法を巡っては、まだ幅広いコンセンサスが得られていない状況があるのも事実だ。どのような制度設計にすべきか、国としての予算配分はどうあるべきか、改善に向けた議論が活発化することを期待したい。
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