奪われたのは「夢見る力」

 6月に東京で行われたカナエールにいくと、452席の会場は満席。1席5000円のチケット代も彼らの奨学金になるという。スピーチコンテストで語られた彼ら彼女らの幼少期の体験や抱えてきた苦しみに、会場のあちこちからすすり泣く声が聞こえた。

「私たちのお母さんは虐待をする人でした。妹が汚れた服を着ていると、早く着替えさせろよと怒られ、着替えさせようとすると走り出して逃げるのでつかまえると泣いてしまい、それでまた怒られる」

「小学校1年生から施設に入りました。小学校6年生くらいになると、いずれ先輩のように何となく働き、何となく生きていくようになるのだなと思い、人生をあきらめ始めました。自分そのものを肯定することもできず、自分の存在意義を探していました」

「3歳で施設に入った私は、人を信頼してはいけないとずっと思って生きてきました」

6月に行われた「カナエール」は400人以上が一般観客として子供たちを見守った

 このスピーチコンテストは、夢を語ることが目的だ。彼ら彼女らは、経験を通して今、どのような夢を持っているのかを語り始めた。

 妹の世話をしていた彼女は、続けてこう語った。

「それでも、妹は私の喜びそのものでした。小さな手で私の手を目一杯握ってくれたとき。初めて私の名前を呼んでくれたとき。小学校5年生の時に施設に入って、妹と離ればなれになってからも、妹のことが心の支えで、今はそれが私を保育士になりたいと強く思わせてくれています」

 自分の存在意義を探していた彼は今、理学療法士を目指すべく勉強を始めた。人を信頼できなかった彼女はマクドナルドのバイトで信頼できる先輩に出会い、その先輩が目指していた看護師に自分もなりたいという。

 ブリッジフォースマイル代表の林恵子氏は、カナエールの冒頭挨拶でこう述べた。「児童施設の子供たちは、親を奪われただけでなく、夢見る力を奪われ、将来をあきらめている子が少なくないのです」。暴力などの特殊な事情で児童施設に入所した子供たちは、何をするにも遠慮したり、あきらめたりしてしまい、人生の選択肢を自らで限定的に捉えてしまう傾向にあるという。

 お金を与えるだけではなく、希望を描ける機会を提供することが必要なのだと林氏は力説した。その取り組みの一つがカナエールなのだ、と。