物づくり「泣きながら議論」

 コーセーが10代、20代を惹きつけるのは、ブランド設計の妙だけではない。「元々の商品力がある」(そごう・西武の吉田氏)ことも大きい。スキンケアブランドとして実力があった「コスメデコルテ」の「AQ」シリーズで2015年に発売した「ルージュ グロウ」、2016年に発売した「アイグロウ ジェム」は、それぞれ硬さと発色の絶妙なバランスが若者を惹きつけた。アディクションから2015年に発売した「99色」の「ザ アイシャドウ」も、過去に例を見ない多色展開が話題を呼んだ。

 「ザ アイシャドウ」は、99色のカラーを一気に発売し、そのカラーは今後ずっと残り続けるアディクションの「顔」として開発された。アイカラーは20色前後で展開されるのが一般的だ。しかも、それらは季節によって改廃され続ける。それを、アディクションでは99色という多色展開に加え、ブランドの「顔」としてすべて残していくというコンセプトで商品を展開した。

 ザ アイシャドウでは、99色の1色1色をすべてAYAKO氏が監修。「彼女の物づくりは全く妥協がない。企画、開発に関わるコーセー社内の人間はいつもものすごい緊張感の中で仕事をしている」(小林社長)。商品企画、宣伝広告などすべてにおいて監修するAYAKO氏と、コーセー社内のアディクションチームとの間では激しい議論が起きることは日常茶飯事。担当者の中には、時に涙を流しながら議論をする者もいるほどだという。

 林昭伸研究所長もAYAKO氏の物づくりに応える研究所の“産みの苦しみ”をこう話す。「アーティストの感覚を実際の製品に落としこむ、という『翻訳作業』は言うほど簡単ではない。言っていることは理解できても、求められている製品を実現するために、どんな素材を使ってどのように加工すればいいのかは、熟練の技術者でも疲労困憊になるほど。99色をやっている最中は、毎日、『まだ決まらない…』と研究者は嘆いていました。終わった後は、つきものが取れたみたいになっていましたけどね」と笑う。

 研究開発で色味が決まったとしても、それを今度は工場で再現し、品質管理するのもまた、苦労が伴う。生産部長の林忠信氏がそのアイデアを聞いたときは「嘘でしょ、と思いました」と笑う。当時の苦労は想像を絶するほどだったという。「最初に展開するのは伊勢丹新宿本店とうめだ阪急の2店舗だけ。しかも、初回の生産量は120個ですよ」(林氏)。すべての商品で「ブレ」がなく色味を忠実に再現することに始まり、パッケージの不具合の有無をチェックするなど、1つの商品を生産するには数多くの検査項目がある。「品質管理をするのがものすごく大変で、120個のために、それを99色分やるのかと思うと、目の前が真っ白になりました」。

 蓋を開けてみれば、「ザ アイシャドウ」は、大きな話題を呼び、2016年の「@cosme ベストコスメアワード2016 総合大賞」に選ばれるなど、期待通りアディクションの「顔」となった。アディクションの売上高は、現在コーセーの売上高の10%弱を占めるまでに成長している。

 アディクションの“担当者泣かせ”の多色展開は今もなお続いている。2017年9月8日に従来の5色展開から17色に拡大して発売したファンデーションもその1つだろう。小林社長は「非効率きわまりない」と笑いながら、それでもこうしたチャレンジが必要だと説く。「女性に対するプレゼンテーションという意味で、女性はやっぱり選ぶ時に気持ちが上がることが大事でしょう。売り場に行ったり、商品を選んだりするときのそういうプロセスが大切なんですよね。さらに、海外に行こうとしたら、色数の好みや『肌色』という概念自体が、日本だけの感性では捉えられないほど広くなる。そうした意味でも、こうしたチャレンジは続けていきたい」(小林社長)

 元々国内メーカーは「スキンケアには強い」と言われていた。一方で、それは「メーキャップは今ひとつ」の裏返しでもあった。インバウンドの追い風に乗って、「国内発メーキャップブランド」が世界に羽ばたく日が来るのか。各社の競争は続きそうだ。