個人情報のコントロールに必要なことは何か

 自身のデータを売りたい個人と、データを買いたい企業を仲介する、「情報銀行」の実証実験が次々に立ち上がっている。大手企業が参入する中で、ベンチャー企業のデータサイン(東京・渋谷)が消費者志向の情報銀行の計画を立ち上げ、気炎を吐いている。情報を「開示」、「持ち出し」、「削除」するという、法律でも十分に保護していない機能の実現に取り組んでいるのだ。

 「ユーザーはフェイスブック上の情報をコントロールできる」

 米フェイスブックにおける個人情報の不正流出問題を受けて、マーク・ ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が米議会公聴会で証言した内容だ。記者はこの証言を眉に唾をつけながら聞いていた。

 ユーザーがある会社に提供した自身の情報をコントロールするには、「情報を開示させられる」、「情報を他社に持ち出しできる」、「情報を削除できる」ことが重要だと記者は考えている。ひとつひとつ説明しよう。

 まず「開示」。アプリを利用しているうちに位置情報などを無意識のうちに提供してしまう。あるいは、SNSへの投稿内容などからネット事業者が誤ったプロファイリングをしてしまい、ユーザーの嗜好や生活実態とはかけ離れた広告メールばかり送られてくる。こんな事態を防ぐためには、各社に保有している情報を全て開示してもらい、確認することが必要だろう。

 次に「持ち出し」。「開示」との違いは、データを読み取りやすいように整形された状態でネット事業者に提出させることだ。そうすれば、他の事業者がそのデータを取り込める。例えば、使わなくなったEC(電子商取引)サイトから情報を引き出し、新しいECサイトに読み込ませれば、買い物がスムーズになる。

 そして、「削除」。誤って提供してしまった情報や、もう利用することのないサイトに提供した情報は削除したい。これらは一消費者として直感的に要求したいと思うことではないだろうか。

 フェイスブックは、流出問題を受けて情報管理機能を充実させており、各種データの一括ダウンロードや削除をウェブ上でできるようになった。しかし、実際に記者が利用してみると、データの内容の説明を詳しく求めた際に英語で返信をしてくるなど、その後の対応に問題が見つかった。

 グーグル、アップル、アマゾン・ドット ・コム、日本のLINE、ヤフー、楽天にも同様に情報の開示を求めた。その詳しい経緯はこちらの記事にまとめた。ざっくり言えば、フェイスブックの対応はまだ良い方で、そもそもユーザーから質問ができない、開示にも応じないといった問題がどの会社にもあった。ネット業界全体が「ユーザーによる情報のコントロール」という課題に対して積極的な投資をしていないように思える。

 各社にも言い分はある。データを分散して格納しているため、一括して情報を開示したり、削除したりすることが難しいというのがその理由の1つだ。こうした対応にコストをかけるのが難しいということだろう。民間企業である以上、仕方ない判断なのかもしれない。しかし、それなら冒頭のザッカーバーグ証言はやはり欺瞞だ。

 「我々は自らの個人データの制御を失ってしまった」。WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)を発案した「ウェブの父」、ティム・バーナーズ・リー氏は昨年、こんな声明を発表した。ネット事業者のイノベーションは我々の生活を豊かにする一方で、同氏が指摘するようなリスクを生み出した。

 ネットを蝕むこの問題に挑む起業家が日本にいる。データサイン(東京・渋谷)社長の太田祐一氏。元々、ネット広告業界でデータを円滑に流通させるシステムを開発していた。しかし、個人情報が無秩序に拡散する業界慣習に疑問を感じ、企業が個人情報を適切に管理できているかを調査するビジネスを立ち上げた。総務省による「情報銀行」に関する検討会のオブザーバーにもなっている。

 情報銀行とは、情報を提供したい個人と情報を買いたい企業の仲介を担う事業者だ。消費者は自身のデータを情報銀行に預託する。銀行は提供先の企業を消費者に提案する、または消費者が設定した一定の条件のもとで提供先を決める。データの提供を受けた企業は、消費者に対し何らかの便益を返す。例えば、マーケティングのために購買履歴を買い取った企業が、自社のクーポンを発行する、といった流れだ。

 情報銀行を担う事業者を政府が認定するスキームが間も無く始まるのを前に、既に三菱UFJ信託銀行や電通など大手企業が情報銀行に参入する方針を示している。その中で、ベンチャーのデータサインが徹底したユーザー志向の情報銀行の計画をぶち上げている。同社は9月にそのプロトタイプとなるツールの提供を開始。記者も早速使ってみた。