この問いに対する答は、ソフトバンクとは何かを答えるに等しいのだろう。とうに忘れられているが、東京証券取引所における同社の業種分類は初め「卸売業」で、のちに「情報・通信業」に変わった。2006年10月のことだ。

 パソコンソフト販売に始まった事業は、出版に展開し、94年に店頭公開するや、上場で得た資金を元手に米展示会会社、半導体販売会社の買収で事業を拡げる。多様なコングロマリット化かと思いきや、インターネットの普及が始まると、2001年にはブロードバンドサービスに転じた。
 途中、ナスダックジャパンを開業し、日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)に出資して金融にも寄り道したが、2004年7月に固定電話の日本テレコム、2006年4月にボーダフォンジャパンを買収してようやく通信業に落ち着いている。

大胆なM&Aで事業構造を作り替え、成長してきた
ソフトバンクの業績推移と主な出来事
2004年7月日本テレコムを買収。固定電話事業に進出
2005年1月福岡ダイエーホークスを買収。プロ野球進出
2006年4月ボーダーフォンジャパン買収。携帯電話事業に進出
2013年7月米携帯電話大手、スプリントネクステル(現・スプリント)買収
2016年7月英半導体設計会社、アームホールディングス買収で同社と合意

「通信事業は新しい社会を実現するための手段」にすぎない

 ソフト販売・出版→展示会→インターネット→金融→通信という事業の変転が示すのは、孫正義という人物のただならぬ投資眼である。既に上場前から、ベンチャー企業への投資を事業と並ぶ両輪とし、今なお通信業と共に投資事業を柱としている。今回のアーム買収も、その投資事業の上がりが大きな資金源となっている。

 つまり、彼は事業投資家なのである。カネと事業の可能性・収益性を秤にかけ、後者が重い事業をかぎ分けて思い切って張る。投資の天才と見るべきなのだろう。
 これをもって、その正体を怪しむ向きが長年あったが、それもおかしい。それ自体、コツコツとモノを作り上げて完成度を高める職人の国、日本の嗜好にすぎないからだ。孫社長の足跡にあるのは投機ではなく投資である。
 さらに言えば、その差が分からないことに日本企業、経営者の弱点がある。取材の折、孫社長に改めて聞いた。「通信は将来ともソフトバンクの本業か」と。彼はこう答えた。「(アームの半導体を使って)新しい社会を実現するための手段だ」。

 未来はどんな社会になるのか。人々が必要とするものはどう変わるのか。将来への空想(展望)と共に事業の可能性を徹底的に問いつめていく。そして必要なものは残し、そうでないものは離す。
 孫社長の頭の中にあるのは、ただそれだけなのだろう。経営者というより、やはり事業家である。日本企業に必要なのは、そのスピリッツではないのか。