出身会社と連携することも

 もうひとつ妨げる要因なのが新規事業の考え方だ。新規事業に過度な期待をかけることで、成長の芽をつんでしまう。

 「売り上げ100億円を見込めるなら考えても良い」。東芝で研究職だった上野宗一郎氏は新規事業についてプレゼンした時に、事業部門の幹部に言われたことを忘れられない。

 上野氏は光学レンズを使わない顕微技術を開発していた。従来よりも500分の1のコストで、20倍の視野が広くなる技術だ。東芝の新規事業案として採択され、9か月かけて事業の可能性やプロトタイプを開発した。いざ事業部で製品化に向けて開発を続けようとしたところ、大きな売り上げ目標を立てられ頓挫してしまった。上野氏は100億円は難しいまでも売れる自信はあった。

 ただ東芝社内では実現できる道がとざされてしまった。新規事業の出口を失った上野氏は東芝から特許の使用許諾を得て独立。CSCテクノロジーの最高技術責任者に就いたのだ。東芝には特許の使用料を支払うことで協業関係にある。「売り上げ100億は分からないが十分に需要はある。東芝とも連携することで新規事業の新しい出口を模索したい」(上野取締役)。

 上野氏のように社内で壁にぶつかってもあきらめずに、別会社を立ち上げて、アイデアを形にしようという人が増えてきた。

 ソニーの旧本社からほど近い場所に、ソニー出身のメンバーが立ち上げたベンチャー企業がある。セーフィーはソネット(現:ソニーネットワークコミュニケーションズ)やソニー出身のエンジニア3人が、防犯カメラをインターネットにつなぐことで、従来品よりも安く便利なものにした。

起業の環境は整いだした

 セーフィーはソネットに第三者割当増資を引き受けてもらった。ソネットが提供する光回線とのセット販売を始めるなど協業関係を構築できた。大手企業が持つ販売力を組み合わせることで事業の成長を速めようとしている。

 ソネットでエンジニアとして働いていた佐渡島隆平社長は「ソニー社内で新規事業として提案したら、実現までに多くの制約があっただろう」と振り返る。ソニーにも防犯カメラは既存事業としてある。セーフィーは専用ソフトを介せばハードウエアはどのメーカーでも良く制約がない。ソニー社内で検討するなら、ソニー製品を優先せざるを得なかったに違いないからだ。

セーフィーの佐渡島隆平社長(中央)。ソニーグループ出身者で起業(写真撮影:北山宏一)

 セーフィーのように大企業とベンチャー企業の提携を模索する動きはほかにもでてきた。パナソニックは7月に外部からアイデアを募る「アクセラレータープログラム」を始めた。ベンチャー企業からの応募も多く、これまでとは異なる企業規模から新しいアイデアが寄せられた。今後、提携する可能性がある。

 商品開発に不可欠な資金調達はクラウドファンディングを活用する手段が一般的になるなど、起業へのハードルは下がってきた。
 だがまだ日本は主に株式公開しか区切りがない。米国のように大企業とベンチャー企業の役割が明確でなく、起業家がいつまでも同じ事業をしなければならない形となっている。

 あとは起業への不安解消だ。社長が企業の借入金の連帯保証人となることは少なくない。そのため失敗するとなかなか復活できないイメージがついている。

 会社員の起業事情に詳しいトーマツベンチャーサポートの粂田将伸氏は「サラリーマンを続けながら起業の準備ができる環境を整うことが不可欠。斬新なアイデアをもった会社員が安心して挑戦しやすくなる」とみる。

 確かにグリーの田中良和社長も楽天勤務時代に、週末を利用して作っていた事業が本格化してできたといわれている。ロート製薬のように副業を認める企業も増えてきた。週末だけ使えるレンタルオフィスも登場している。アベノミクスの成長戦略でも期待されている起業だが、安心して準備できる環境づくりが成否のカギを握りそうだ。