日本通信の福田尚久社長(写真=大槻純一)
日本通信の福田尚久社長(写真=大槻純一)

 現状、MVNOはキャリアが手掛けてきたサービス(通話やインターネットへの接続)を、品質は若干劣るものの低価格で提供している。キャリアの「高価格、高品質」のサービスを過剰と考える人にとって、多少速度が遅くても価格の安いMVNOは魅力的な選択肢となってきた。だが「キャリアの劣化版では市場はすぐに頭打ちになってしまう。ここで競争し続けても未来はない」と日本通信の福田社長は見ていた。そこで着目したのがMVNOとMVNEという格安スマホならではの分業体制だった。

 日本通信などノウハウを持つ業者がMVNEになることで、極論すれば誰でもMVNOになれる。たとえば地方のあるシステム会社は日本通信を裏方(MVNE)にMVNOとなり、顧客の信用金庫向けに集金システムと通信を組み合わせた独自のサービスをタブレットで提供した。これにより、金庫の職員がどこでも集金処理ができるようになり、作業の手間を大幅に省くことができるようになったという。

 キャリアや既存のMVNOがこのような細かいニーズにいちいち対応するのは難しいが、当事者が自らMVNOとなり、MVNEの使いやすい通信プラットフォーム(基盤)を活用することができれば、これまで通信を利用していなかった様々な分野で新しいサービスが生まれるかもしれない。日本通信がMVNOからMVNEに転身した背景には、こうした読みがある。

作れるか通信市場の「第4の極」

 日本通信の目指す戦略が奏功するかはまだ不透明だが、既に格安スマホ業界ではキャリアにないユニークなサービスが生まれ始めている。

 IoT(モノのインターネット)に特化したMVNOを展開する2015年設立のソラコムはその代表例だろう。さまざまな機器やインフラに通信機能を持たせ、その状況をリアルタイムに把握したり、細かく操作できれば、生産、管理コストを大幅に削減したり、新しいサービスを生み出したりできる。ただIoTで受発信するデータの量は少なく、通常のキャリアやMVNOの月額の料金体系ではコストが合わないのが課題だった。ソラコムは専用機器が必要だった通信インフラをソフトウェアで置き換え、これをクラウドに集約することでコストを抑えることに成功。さらに、クラウド活用により莫大な数の通信機器を顧客が細かく制御できるようにした。2015年9月のサービス開始以来、顧客は急増しており、トヨタ自動車や三井物産、日立製作所など大手と相次ぎ連携している。

 また無料対話アプリ大手のLINEは近日中に展開する予定の格安スマホで、同社の対話アプリの基本機能を使い放題にするサービスを打ち出している。同社のように、ネット通販や記事配信などを手がける企業がMVNOとなり、自社アプリを使い放題にする仕組みは今後広がる可能性はある。実際、足元では、人気のアプリ「ポケモンGO」を通信量の上限なしに遊べるサービスも登場している。

 総務省や政府はキャリアの寡占による携帯料金の高止まりを問題視し、格安スマホの拡大を後押ししてきた。それでも業界構造が変わっていないとして、今年8月には公正取引員会がキャリアのスマホ販売の商慣行について問題点を指摘するなどして競争促進を求め始めた。このような官の動きは格安スマホ勢の後押しになるだろう。だが同時に、格安スマホ勢も安かろう悪かろうの「キャリアの劣化版」ではなく、新しいサービスを生み出していかなければ、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに続く通信業界の「第4の極」を確立することはできない。先駆者である日本通信は「格安スマホの黒子」となって、ユニークなMVNOを生み出すプラットフォームとしての地位を確立できるか。同社の新戦略が奏功するかはまだ不透明だが、その巧拙が「第4の極」確立のカギになりそうだ。

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