「お前に会わせたい人がいる」。そう興奮ぎみに電話してきたのは高校の友人だった。日経ビジネス2018年7月23日号の特集「オープン編集会議で考えた イノベーションは起こせる」で、筆者は多くの起業家を取材した。その特集を読んだ友人が、私の署名を見つけて連絡してくれたというわけだ。

 「とにかくエネルギッシュな起業家で、色々なビジネスを考える人なんだ」という友人の言葉に興味がわく。スタートアップ企業において、ビジネスモデルのアイデアは武器であり、命綱でもある。とにかく沢山のアイデアを取材して読者に届けたいという気持ちもあり、取材に向かった。

今の事業は20件め

 紹介されたのは、株式会社Zenport代表取締役CEO(最高経営責任者)の加世田敏宏氏だ。「3年前に起業してから、数々のビジネスを作ってきた。今は20個め」と同氏は話す。Zenportが提供するのは貿易業務を効率化させるシステムだが、開発までの道のりは遠かった。

 加世田氏が起業したのは2015年の夏。得意だったプログラミング技術を生かし、仮想通貨を用いた外貨の両替サービスを思いついた。「例えば日本円と米ドルを両替すると手数料がかかる。ところが、いったん日本円を仮想通貨にして、その仮想通貨で米ドルを買うと、合計しても手数料が安く済む。そこに商機があると感じた」と加世田氏は振り返る。

 大学院卒業と同時に起業することを見据え、ベンチャーキャピタル(VC)とも話を重ねていた。実際に外貨両替サービスのシステムも形になりつつあったが、ここで問題が発生。2015年当時の日本では、まだ仮想通貨の取引が活発ではなく、そもそも両替需要を支えきれるだけの流通量がなかったのだ。

 その後、仮想通貨に送金履歴を記録し、マネーロンダリング(資金洗浄)や犯罪防止に役立てるといった事業をファンドから資金を得て開始した。しかし、利益の確保が難しく、事業を方向転換する必要に迫られた。

 仮想通貨以外のビジネスも考えた。スマートフォンなどを通じて鍵を開閉するスマートロック、ウェブサイト上で悪意のあるユーザーが妙な行動をしていないかチェックするツールなど、多くの分野に挑戦したが、なかなか軌道に乗らなかった。「中には事業としてスタートできなかったものもある」と加世田氏はこぼす。

 ビジネスモデルの確立に苦心する中、貿易事務の効率化という今のサービスにどのようにしてたどり着いたのか。ヒントになったのは、大学院在学中に経験した中国への留学だった。加世田氏が中国に留学していたのは、ちょうど日本と中国のGDP(国内総生産)が逆転した時期。「中国の急成長を支えているのは、世界中から集まるすごい量の物資なんだと肌で感じた」と同氏は言う。

 その経験から貿易業界に興味を持ち、市場を調査したところ、意外にも非効率な業務が散見されたという。総合商社などが担う貿易業務では、様々な細かい作業が発生する。海外企業に商品を発注する、船への積み込みを管理する、港に届いたコンテナを確認する、商品を分類して倉庫に運ぶ、といった具合だ。

 ところが、発注数、納期などの数値を、各工程の担当者が表計算ファイルでばらばらに管理しているケースが多かった。輸出入には3~4カ月かかり、船の到着が遅れる、受注が上乗せされるといった予定変更はつきものだったが、その度に表計算ファイルを各担当者が一つひとつ書き換える作業が発生していた。「貿易は“レガシー”な業界で、IT(情報技術)を持ち込んで業務効率を高める素地があった」と加世田氏は説明する。

 Zenportのシステムを導入すれば、たとえ船の到着が遅れたとしても、その後の工程にどういった影響が生じるかひと目で分かる。現在はワインやアパレル、食品、雑貨などを扱う専門商社などを中心に、十数社で契約交渉を進めている。実際にシステムを導入したある商社の貿易担当者は「社内で調整するためにかかっていた時間が95%減った」と効果を体感しているという。