「金継ぎ」から読み解く失敗を恐れぬ文化
日本でもスタートアップの存在感が高まってきているように映るが、米国に比べるとまだまだ投資規模が小さい。
米国のスタートアップへの投資規模は年間6兆~7兆円ともいわれ、日本の30倍以上もある。米国ではその巨大な投資がイノベーションの源泉となり、経済的な好循環を生み出している。
証券市場の時価総額の上位企業を比べても、新陳代謝の違いは明らかだ。米国では10年前にはスタートアップだったグーグルの親会社アルファベットやアマゾン・ドット・コム、フェイスブックなどが上位を独占する。だが、日本ではおおよその顔ぶれは変わっていない。
日本でさらに起業が増え、有望なスタートアップが次々と誕生するには何が必要なのか。7月下旬、米シリコンバレーで成功した起業家が面白い指摘をしていた。
「日本は失敗を恐れる傾向が強いと聞く。非常に優秀な人たちが、失敗を恐れて起業しない」。こう語ったのはエバーノートの元CEOのフィル・リービン氏だ。
同社はネット上に文書などを保存・共有するクラウドサービスを開発・提供し、世界中に1億5000万人のユーザーを獲得した。2015年にCEOを退任したリービン氏は新たな挑戦に打って出ている。今年5月、起業支援の新会社All Turtles(オール・タートルズ)を創業した。
東京にスタジオを開くにあたって、7月下旬に都内で記者会見を開いた。起業やスタジオ開設の狙いは、NBOの5月18日の記事(元エバーノートCEO「AIスタジオ」設立の真相)に詳しい。
リービン氏が日本での起業を促すために、会見の終盤で取り上げたのは日本の伝統技法である「金継ぎ」だ。金継ぎとは、割れた器を漆で継いで直し、割れた跡を金属粉などで修復する技法である。
リービン氏は、友人から福島の復興の話を聞いた際に金継ぎに出会った。その友人は「震災で壊れてしまった街を、直した部分を隠すのではなく、金継ぎのようにあえて美しく目立たせる」という考えを持っていたという。その話に感銘を受けたリービン氏が金継ぎ職人を紹介してもらうことに。
同氏にはエバーノートCEO時代に愛用していたものの、割ってしまったマグカップがあった。それを金継ぎ職人に修復してもらったのだという。その過程でリービン氏は多くの気づきがあったという。「壊れたカップが金継ぎによって、新しい価値を持つものに生まれ変わることに衝撃を受けた」

会見ではそのマグカップを紹介しながらこう訴えた。「私もスタートアップで様々な失敗をして多くの学びを得た。壊れないように会社を作るのではなく、壊れることを前提に考えることが大事だ」。
リービン氏の指摘は、日本に元来根付く、失敗から新たな価値を生み出す知恵を思い起こさせてくれる。
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