トヨタ生産方式と寺社仏閣の意外な共通点

 読者の方々もご存じの通り、トヨタ生産方式の基本は「5S」(整理、整頓、清掃、清潔、躾)にある。現場の5Sを徹底すると、異常が現場にいる誰の目にもすぐ分かり、その場で解決できるというメリットがある。

 これは記者独自の捉え方だが、5Sの意義は表(目に見える部分)と裏(目に見えない部分)があるように思う。表の意義は、5Sを実践することで物理的な混乱が生じづらくなり、ミスなく効率的に生産できるようになること。裏の意義は、作業者の心と頭がスッキリして、仕事へのモチベーションが高まることだ。

 これは工場に限らず、どんな職場でも実感できる。例えば、オフィスの机。整理整頓されていれば、すぐに処理しなければならない事務作業が発生しても、必要な道具(のりやホチキスなど)や資料がどこにあるかすぐに分かり、ムダなく作業に入れる。物が散乱している机よりきれいな机で仕事をした方が、気分がいいのは言うまでもない。

 考えてみれば、寺社仏閣も5Sは徹底している。記者の自宅は神社の隣で、部屋の窓から社殿と庭を一望できる。毎朝6時過ぎになると(季節によって7時前後になる時もある)、90歳くらいと思われる宮司さんがほうきと塵取りを持って出てきて掃除を始める。「腰は大丈夫かな。手伝った方がいいかな」と思いつつ、その真摯な姿に「今日も頑張ろう」と励まされている。掃除と参拝客数に因果関係があるかは分からないが、その神社には、小さいながら朝から夜まで頻繁に参拝者が訪れている。

 目には見えないが、仕事をする人の気分と生産性は直結しているのではないだろうか。トヨタ生産方式には、その「見えない仕掛け」が実装されているように思う。

混沌の時代だからこそ、精神性は欠かせない?

 日本の企業経営とスピリチュアリズム(精神主義)は、その因果関係を証明できないにもかかわらず、長きにわたり深いつながりを持ってきた。パナソニックを創業した松下幸之助氏は、「根源の社」という神社のような宗教施設を創設しており、松下政経塾の卒業生たちが今も信奉しているという。東証一部に上場している多くの企業のオフィスに、神棚があったり札が壁に貼られたりしているのも、いまだによく見られる光景だ。

 トヨタ生産方式の取材で前述の「見えない仕掛け」を認識していたため、冒頭の章男社長の発言には「さもありなん」と妙に感じ入った。

 EVや自動運転などの新技術への急速なシフトと、グーグルやアップルといった新しい競合の登場で、自動車業界は混沌としている。そんな時代だからこそ、スピリチュアリズムの共有が企業群を一致団結させ、同じベクトルに向かわせる推進力となる――。章男社長の頭には、そんな考えもあったのではないかと推察する。

 目に見えるものだけを追っていても、物事の本質の全貌は見えない。そんなことを経済誌の記者としても考えさせられる会見だった。