トヨタ自動車とマツダの資本業務提携を発表する記者会見は2017年8月4日、安産祈願で有名な水天宮(東京・中央区)近くのホテルで開かれた。

 「クルマを愛する者同士の結婚」。こんな比喩も飛び出した会見は数多くのメディアに取り上げられたが、記者の知る限りではどのメディアも取り上げていなかった唯一の場面がある。トヨタの豊田章男社長から「お寺発言」が飛び出した場面だ。

 こう書くと、会見の内容と全く関係ないように聞こえるが、記者はここに「トヨタがトヨタたるゆえん」を見た気がしたので、経済誌の記者として書くのはある意味タブーであると理解しつつも、ここで取り上げたい。

水天宮近くのホテルで会見を開いたトヨタの豊田社長とマツダの小飼雅道社長

共に「トヨタの寺」を参拝した“同志”

 その「お寺発言」とは次のようなものだ。この日、最も会場が盛り上がった場面でもあった。

 「私どもは40数年にわたって(長野県茅野市にある)蓼科山聖光寺(たてしなさんしょうこうじ)で安全祈願をしている。そこに(茅野市出身の小飼社長に)茅野市長からの誘いで来ていただいたことがある。交通事故死ゼロに向ける両社の思いをそこで確認した」

 「この2年間の婚約期間(両社は15年5月に環境技術における協業を発表した)では、飽きるどころかお互いの良さを確信し、潜在的な魅力をより感じることができた。(今回の提携で)結婚するとなると、水天宮だから申し上げるわけではないが、ご縁ものが出てくる。そのうちの一つが今回の提携で検討に入る(合弁会社を設立して新設する)アメリカの工場であり、EV(電気自動車)の共同開発でもある。資本(株式の持ち合い)は……、結納金なのかな(笑)」

 聖光寺は1970(昭和45)年7月、トヨタと関連会社が施主となって創建された、交通安全、交通事故遭難者の慰霊、負傷者の早期快復を祈願するための寺だ。毎年7月、豊田章一郎名誉会長や章男社長をはじめとするトヨタや関連会社の経営陣が、ここに集結して交通安全を祈願する。夏季大祭と呼ばれる恒例行事だ。70年当時、トヨタの社長を務めていたのは豊田英二氏。豊田家の思いが込められた聖光寺は、トヨタグループ関係者が精神性を共有するための重要な場所だ。

 この夏季大祭に小飼社長が参加していた、という話は、ある人物から聞いて記者も知っていた。そのため「何かありそう」との予感はあったのだが、公式の場で章男社長自身がその事実について触れるとは思っていなかったので、かなり驚いた。

 顧客の安全や社員の安全を祈念して寺社仏閣を訪れることは、日本人ならある程度は理解できる。だが、海外メディアからすれば、なんともエキセントリックに映るに違いない。場合によっては、「ユーザーの安全を神頼みするなど論理的な思考に欠ける」とも受け取られかねない。

 でも記者は、小飼社長が夏季大祭に参加したことは章男社長にとって、記者会見で思わず話してしまうほど重要な意味を持っていたのではないかと思った。トヨタ生産方式の取材を通じて、トヨタという会社は「目に見えないことにも物事の本質はある」という考え方を大切にしていると感じていたからだ。