中国の芸能関係者は、今回の韓流排斥を「自国文化を発展させるためのいい機会」と見ている節も大きい。韓国芸能界が中国マネーに頼らない体制作りを進める必要があると同時に、中国では韓国人であふれている芸能界において、韓流文化に頼らない自国スターの育成や大衆芸能文化の醸成が必要になってきそうだ。

コンテンツは「政治」を超えるか

 今回の一連の動きは、コンテンツビジネスの難しさを露呈させた。

 韓国側が韓流ブームを海外で広げようと必死になっているのはもちろんだが、中国でここまで韓流人気が高いのは、中国人自身が韓流文化を受け入れているからに他ならない。「文化」は時に、国と国との「政治」の関係をゆうに超えるパワーを持つ。これは韓流だけではなく、日本のアニメや漫画などの産業も同じだ。政治面では日韓、日中の関係は冷え切っているが、どんなに関係が悪化しても日本のアニメや漫画などのコンテンツは韓国や中国でいまだ根強い人気を誇る。

 「アイドルのコンサートに行きたい」「好きな俳優に会いたい」「ドラマが面白い」という個人の文化的活動を、他人が規制し無理やり引き離してしまった際に発生する負のエネルギーはとてつもなく大きい。記者自身、以前参戦予定だったアイドルグループのコンサートが直前になって中止になり深く落ち込んだことがある。その際は、メンバーのケガが原因だったため仕方がないと諦めがついたが、政府からの不可抗力によって中止になったと言われば憤慨していたに違いない。今回中止になった冒頭のドラマのファンミーティングに参加予定だった中国のファンは、一体どのような気持ちで今回の措置を受け取っただろうか。

 今回、中国政府は規制を設け無理やりにでも韓流文化を排斥しようと動きだした。しかし、韓流が民族や地域を超え、普遍性を備えた価値あるカルチャーなら、どんなに政府が投資を抑制しても根強く息づいていくはずだ。

 国同士の外交関係は最悪だが、文化は受け入れる。そんな複雑なアジアの地政学を韓国はどう乗り越えていくのか。その動きは、コンテンツビジネスで世界に打って出ている日本企業にとっても、決して対岸の火事と傍観できない。

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