1つの仕事だけでは生きていけない時代に?

 海老澤氏は、ファッションエディターから弁護士になったことで、同じ事象でも異なる角度から見られるようになったと言う。著作権に対する考え方も少し変わった。ファッションエディターとして働いていたころは、「カメラマンにだけ著作権が認められるのはおかしい」と思っていた。だが、法律を勉強するにつれ、「スタイリストなどにも著作権を認めると、二次使用の際に多くの人に確認を取る必要があり、大変。弊害もあることに気付いた」。現在では、「最初の契約をする段階で、二次使用する際は誰にいくら使用料を払うか決める」といった折衷案も考えている。

 記者は、海老澤氏の発した「ファッションエディターと弁護士、2つの視点」という言葉が印象に残った。どちらかの視点しか持ち合わせていなかったら、問題の解決を図ることは難しいだろう。著作権の問題でも、現場にいた海老澤氏だからこそ、著作権がカメラマンにしか認められないことに違和感を持てる。また、ファッション業界ではたびたび長時間労働が問題になるが、これも現場からすれば「好きだから何時間でも働いてしまう」側面がある。だからこそ、この問題に取り組む際は、「長時間労働はいけないのでやめてください」と頭ごなしに否定するのではなく、相手の気持ちを理解したうえで相談に乗る必要がある。

 業界における問題は単に法律知識があれば解決できるわけではない。法律家としての知識や経験が豊富でも、特定の業界や社会生活の現場で起こっていることの本質を知っているとは限らない。問題を「自分事として体験した」というのは、海老澤氏の大きな強みだろう。

 「副業は本業の妨げになる」「1つの仕事を極めるのがよい」――。そんな声はまだ根強い。だが、海老澤氏のキャリアを通して見えるのは、「複数の仕事の経験があるからこそその相乗効果を発揮できる」場面も多いということだ。複雑化する社会の中ではむしろ、「1つの仕事だけは生きていけない時代」が、やってくるのかもしれない。