ファッション業界の慣習に違和感

 だが、ファッションエディターとして働く中で、「これはおかしいのでは」と思うことがいくつもあった。例えば、原則として「写真の著作権はカメラマンに帰属する」とされていること。これは、光の角度や構図を決めるなど、カメラマンが中心的な役割を担っているとみなされているからだ。ファッションエディターやスタイリスト、メーキャップアーティストなどは、現状では写真の著作者とみなされていない。そのため、写真を二次使用(例えば雑誌に掲載した写真を、ポスターに再度使用すること)する場合は、カメラマンの許可を得る必要はあるが、スタイリストなどの許可は必要ない。二次使用する場合の料金も、通常カメラマンにしか支払われない。だが、実際の撮影現場では、スタイリストが主導することもある。「現場の感覚からすると、カメラマンだけに著作権があるのは違和感があった」(海老澤氏)。

海老澤氏が担当した誌面。『エル・ジャポン』2010年11月号より
海老澤氏が担当した誌面。『エル・ジャポン』2010年11月号より

 また、スタイリストに対する未払いも目撃した。「雑誌が休刊したり、そもそも出版社自体がつぶれてしまったりすると、未払いのまま逃げられてしまうことがある。ファッション業界では、紙で契約する文化があまりない。電話でスタイリストに仕事を依頼することも多いため、なあなあにされやすい」(海老澤氏)。

 業界の一部でも、二次使用や未払いが問題になったことがあるという。だが、ファッション業界に詳しい弁護士はおらず、話はなかなか進まなかった。

 見かねた海老澤氏は「それなら私が弁護士になろう」と決意。2011年にファッションエディターの仕事を休止し、猛勉強。翌12年に一橋大学のロースクールに入学する。2度目の司法試験で合格し、16年に弁護士登録した。現在は都内の法律事務所で企業法務を担当するかたわら、「fashionlaw.tokyo(ファッションロートウキョウ)」を立ち上げ、ファッション業界の駆け込み寺を目指している。

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