社長の孫の行動が会社を変えた

 従来のビジネスモデルから大きく転換するきっかけを作ったのは、社長の孫で副社長の長男にあたる常務取締役の坂和寿忠氏だった。祖母と父の危機意識だけでなく、社内の現状も鑑みて、「従来の黒板を生かしながら、黒板の持つ価値をよみがえらせることはできないか」と考えた。

サカワの坂和寿忠常務(写真右端)は、壽々子社長(同左から2番目)と、勝紀副社長(同左端)の危機意識を社内に広げる立役者となった。

 アイデアはあった。スマートフォンアプリを使って、黒板に映像を投影するサービスだ。東京駅丸の内駅舎をスクリーンに見立てたプロジェクションマッピング「TOKYO STATION VISION」をヒントにしたもので、寿忠氏は「駅舎を黒板に置き換えたら、どんなことができるだろうかと考えた」と振り返る。

 スマートフォンアプリであれば、使いこなすのが難しい電子黒板と違って、高度なIT知識を必要としない。従来の黒板をそのまま「スクリーン」として使えるために導入費用も抑えられ、また黒い色の上に投影した映像も色映えして見やすいというメリットもある。教育現場にとってはうってつけだった。

 ところが、サカワには黒板を作る技術はあってもアプリを開発できる技術者はいない。そこで、インターネットで知ったウェブ制作会社、面白法人カヤックの門戸を叩く。問い合わせフォームから新規事業のアイデアを送り、カヤックとの共同開発を2014年から開始した。

 約1年間の試行錯誤を経て、プロジェクターと米アップルのセットトップボックス「AppleTV」を介してスマートフォン画面を黒板に投影するアプリ「Kocri(コクリ)」を完成させた。同アプリを使えば、黒板上にグリッド線や図形のほか、動画などの映像も簡単に投影できる。2015年に東京ビッグサイトで開催された「教育ITソリューションEXPO」でコクリを発表したところ、予想の10倍の約500校から試用申込みがあったという。

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 社内の雰囲気を変えたのは、このコクリの成功だった。「新規事業によって仕事がなくなるのではなく、アプリ開発の企画など、むしろこれまでになかった新しい仕事が生まれるということに社員全員で気付くことができた 」と寿忠氏は話す。

 今では新規事業を始めるにあたり、いくつかの暗黙のルールができているという。最初は売上目標をあえて立てない、展示会に試作品を出すまではすぐにやる、2~3人の小さなグループで始めていい、といった具合だ。

 企業風土が変わってからわずか2年で発売までたどり着いた製品が、黒板全体に映像を投影できるウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード」。パソコンやタブレットの画面をWi-Fi経由で黒板に投影する。赤外線でペン先の位置を認識するスタイラスも付属し、「映像上に」板書ができる。約50万円と高額であるにもかかわらず、通常の数倍の1000台以上を売り上げるヒットにつながった。

 「日本の企業では新しいことを始めようとしても、面白いけど売れないよね、という雰囲気になってしまう。それを、面白いからやってみように変えられれば、新規事業のアイデアがどんどん出てくるようになるだろう」と寿忠氏は話している。

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