梅雨が明けたと思いきや、豪雨に見舞われる。今年の夏は、そんな天候不順が目立ち、気まぐれな天気に振り回されることも多い。特に女性にとっての大きな悩みは、毎朝の服装選び。ただ、服選びの参考にする天気予報が、当てにならないケースも多い。
そんな悩みを解決するため、デジタルマーケティングのコンサルティング会社、ルグラン(東京都渋谷区)が、気象予報会社のハレックス(東京都品川区)と協力して「TNQL(テンキュール)」というユニークなサービスを5月に開始した。気象データを分析して、その日の天気や気温に合わせて、利用者の好みに合った洋服のコーディネートを、スマートフォンなどでイラストを交えて提案してくれるというものだ。
「体感温度」と「好み」に応じて最適な服を提案
地球温暖化などの影響もあり、昔に比べて気温や降水量の変化が激しくなっている。季節はずれの猛暑や予期せぬ風雨などに見舞われることも多く、自分が暮らす場所や地域の正確な気象情報を知りたいというニーズが高まっている。
多くの場合、天気予報では、「一次細分区域」という各都道府県をいくつかのエリアに分けた広い地域を対象としている。そのため、天気予報を基に選んだ服が、職場や自宅の実際の天気や気温と合っていない、そんな経験をしたことがある人も少なくないだろう。
そこでルグランは、ビッグデータ分析やデジタルマーケティングのノウハウを駆使して、「働く女性が気まぐれな天気に振り回されずに、自分らしいおしゃれを楽しめるためのサービス」(同社)として、「TNQL(テンキュール)」を開発した。
TNQLでは、ハレックスが提供する気象情報のビッグデータを活用し、その日の気温・天気・降水量や朝晩の気温差、更には風速や湿度データから算出される体感温度などを基に、720パターンのファッションイラストの中から、利用者に最適なコーディネートを提案してくれる。
職場や自宅などのピンポイントの天気と気温、そして利用者の好みに合った最適なコーディネートを720パターンのイラストの中から提案してくれる。
1km四方・全国37万地点毎に、1時間毎に更新される詳細かつ膨大な気象データを活用している。情報をリアルタイムで取得する。スマートフォンのGPS機能で利用者の居場所を判別し、現在地の天気や気温・湿度などの変化を、1km四方というピンポイントで把握できるため、服選びを間違える“リスク”を大幅に減らせる。地点検索機能を使えば、現在地以外にも職場や出張・旅行先の正確な天候予測に基づいて、最適な服を調べることができる。
ファッション関係の複数のアンケート調査によると、女性は毎朝平均10分程度を服選びに費やしているという。その要因は、天気の読みづらさ。一方、このサービスを利用する30代の女性会社員は、「冷えた時に羽織れる上着やカーディガンを1枚持っていくかどうか、半袖にするかノンスリーブにするか、そんな判断で迷うことがなくなって、出勤前の忙しい時間を有効に使えるようになった」と話す。
TNQLでは、気象条件だけでなく、利用者の服の好みも踏まえて服を提案する。利用者は最初に、自分の服の好みを「エレガンス」や「インポートセレクト」といった5つのスタイルの中から選んで登録。TNQLはそれを参考に服を選ぶ。
利用者は、提案された服が気に入らなければ、別のコーディネートを参照して選択できる。そうした利用者の日々の選択結果をAI(人工知能)が学習していくため、一人ひとりの好みにより合った提案ができるようになるという。
女性気象予報士も開発に参加
「このサービスの最大の特徴は、企画から設計・開発に至るまですべて女性だけで構成されたプロジェクトチームが手掛けたこと。当社からは、3人の女性気象予報士が参加した」。ハレックスの越智正昭社長はそう話す。それだけに、女性にとって使いやすい工夫が施されている。
毎日のコーディネートのイラストや「自撮り写真」を、場所や天気の情報と共に、カレンダーに保存しておける「コーデログ」と呼ぶ機能がその1つだ(下の写真)。開発メンバーは、中心ターゲットである20~40代の女性を対象にワークショップを行い、服選びの悩みを聞き出した。
その中で目立った意見の1つが、「会議や商談などの時に着た服と同じものは、(同じ人たちが集まる)次回の打ち合せでは着たくない」という働く女性のコメント。過去に選んだ服を一覧できれば、そうした“バッティング”を防げる。
選んだコーディネートや「自撮り写真」をカレンダーに保存しておける「コーデログ」機能
ルグランは、TNQLのサービスを無償で提供しているが、開発で培われたノウハウを活かし、「気象データを軸とした新たなビジネス創出を目指す」という。例えば、TNQLで提案するコーディネートを、イラストではなく実際の商品に置き換えれば、アパレル企業からスポンサー収入を得ることができる。
TNQLは、「気象ビッグデータ」を活用した一般消費者向けのビジネスモデルとして、注目されている。観測機器やデータ処理技術の発達によって、ここ数年で従来は考えられなかったほど詳細な気象データを入手できるようになっており、それを生かすことで、商品の売れ筋を把握して収益アップにつなげたり、業務を効率化したりする取り組みが、小売業や製造業など様々な分野で進んでいる。
気象庁が3月に立ち上げ、様々な業種の民間企業が参画する「気象ビジネス推進コンソーシアム」が主催した「気象ビジネスフォーラム」で、TNQLの構想が紹介され、話題になった。
「これまでのように、単に気象情報を提供するだけでは、一般の人々の暮らしに十分に役に立つことはできない。膨大なデータを、利用者のニーズに合うように分析・加工し、何らかの判断や行動に結びつくような分かりやすい形で提供して初めて、情報に『価値』が生まれる。TNQLはそのお手本のような例と言っていい。気象データは、まだ十分に活用されておらず、様々な可能性を秘めている」。ハレックスの越智社長はそう語る。
どんな業種の企業でも直接的、間接的に何らかの天候の影響を受けている。しかも気候変動などの影響で、これまで経験しなかったような異常気象や天候不順が起きている。膨大な気象データを有効活用することで、事業を守り、新たなチャンスをつかむ、そんな事例が、今後も増えていくのは間違いなさそうだ。
Powered by リゾーム?