トヨタ「アクア」に乗っていた消費者が、ホンダの「フィット」に買い替えれば、自動ブレーキの作動速度がぐっと限られることになる。日産「ノート」を所有するドライバーが仕事では社用車のトヨタ「アクア」に乗る場合、勤務中には歩行者の検知機能がなくなることになる。

 自動ブレーキは車種のグレードによっても異なる。一家で2台を保有していれば「お父さんのセダンなら自動ブレーキが作動する場面でも、お母さんの軽自動車では作動しない」といった危険性も出てくる。

 これだけの違いがあっても、消費者はどれも「自動ブレーキ」だと認識している。少なくともテレビCMなどで機能の限界が明解に示される場面は目にしない。ブレーキは「走る・曲がる・止まる」というクルマの最重要性能の一角を占める機能なのに、こうした分かりにくさが放置されていて良いのだろうか。

せっかくの技術なのだから

 話をテスラに戻そう。テスラは発表文の最初の段落で「今回の事故は、テスラ車がこれまでに1億3千万マイルを自動運転モードで走って初めて起きた事故」と強調している。クルマ全体を対象にすれば、米国では9400万マイルごと、世界では6000万マイルごとに死亡事故が起きているという。

 だから「死亡事故が1件起きたにしても、テスラの自動運転モードが手動運転より安全であることには変わらない」というロジックだ。

 ひどい言い分にも聞こえるが、論理的ではある。筆者としても「人間の運転より、コンピューターに任せるほうが安全」というのはその通りだと思う。自動運転車は居眠りしない。アクセルとブレーキの踏み違いもなければ、「ポケモンGO」をプレーしながら走ることもない。

 とはいえ、どんなに確率論をかざしても、家族にとっては事故で失われるのはかけがえのない命である。

 自動運転にしても、その要素技術となる自動ブレーキにしても、せっかく人々の暮らしを豊かにしてくれる技術だ。これまで自動車メーカーの技術者に話を聞く機会が何度もあったが、必ず「少しでも安全なクルマを作りたい」という純粋な思いに感動させられてきた。だからこそ、消費者の誤解や、勘違いによる事故が起きないよう、万全を期してほしいと思う。