日本がスタートアップ投資に沸いている。ジャパンベンチャーリサーチによると国内のスタートアップの資金調達額は2016年、調査開始以来初めて2000億円を超えた。2010年に比べて約3倍になった。

 日経ビジネス7月3日号の特集「失敗しないスタートアップ」では、数多くのスタートアップを取材した。取材後の全体的な印象は「かつての日本のスタートアップ、ベンチャーを取り巻く環境に比べると、かなり未知の分野、事業モデルであっても一定の技術的な裏づけがあれば資金を集められるようになった」というものだった。

 そこで今回は、アフリカ、宇宙、ディープラーニングと全く異なる分野ながら、いずれも「辺境」に挑んでいる今ドキの起業家たちを紹介しよう。

アフリカの「超小売網」に入り込む

 まずは東京都台東区にあるデジタルグリッド。アフリカの未電化地域で収益を上げる。東京大学発の次世代送電技術を「BOP(貧困層を対象にしたビジネス)」に応用した。タンザニアでWASSHA(ワッシャ)と呼ぶサービスを展開している。

 街角にある屋台小屋のようなキオスク。そのキオスクの店主向けに太陽光パネルを使った充電システムと複数のLEDランタンを無料で貸し出す。店主は地域の住民に対して携帯電話やスマートフォンの充電サービスとLEDランタンのレンタルサービスをする。売上高の一定額をデジタルグリッドが得る仕組みだ。

 モバイル送金サービスが浸透しているタンザニアにとって、携帯電話やスマートフォンは通信手段以上に住民にとっての必需品だ。定期的な充電はかかせない。

 そうしたニーズから導入店舗は既に650店まで広がっている。2018年末までに2000店に増やす計画だ。秋田智司社長は「2000店規模になれば事業の黒字化が可能になる」と話す。

タンザニアのキオスクを模した店舗の前で充電サービスについて説明するデジタルグリッドの秋田智司社長(写真:竹井 俊晴)

 2013年の創業当初から3回にわたって大学系VC(ベンチャーキャピタル)の東京大学エッジキャピタルが出資していることに加え、昨年10月には、JICA(国際協力機構)が3億円を出資した。日本はアフリカ外交を強化している。貧困層への電力提供はその国策に合致する。JICAが出資を決めたのにはそうした背景がある。

 デジタルグリッドのここまでの道のりは決して平坦ではなかった。当初はケニアで事業展開したもののうまくいかなかった。生活レベルが想定より高く、ランタンのレンタルの需要が少なかったことなどから、事業が思うように軌道に乗らず、最終的には撤退を決断することになった。

 また、異なる送電事業を日本国内でも手がける計画だったが、こちらもうまく立ち上がらなかった。

 だが、タンザニアでの事業が開花したことで状況は好転した。アフリカ事業に積極的な事業会社からも出資の話が舞い込むようになった。秋田社長は「タンザニアなど途上国市場を狙う共通の思いがある企業、組織と組んでいきたい」と話す。アフリカの「超小売網」に入り込んでいる強みを生かす。

数千機規模の小型衛星群の実用化に商機

 宇宙ゴミ(デブリ)の除去を事業化しようとしている世界的にも珍しいベンチャーがアストロスケールだ。

 宇宙ゴミとなり漂っている人工衛星を、小型衛星を打ち上げて磁力で吸い付ける。小型衛星には推進器があり、宇宙ゴミを吸いつけた状態で小型衛星もろとも地球の大気圏に突入させて燃焼させてしまう。

 東京都墨田区に開発拠点の日本法人があるものの、シンガポールで起業し、今でも本社がシンガポールにあるのも変り種だ。

 そんな同社は昨年、3500万ドル(約40億円)もの資金調達をした。産業革新機構が3000万ドル、ジャフコが500万ドルを出資した。官民ファンドからの出資と規模にはこだわりがあった。

 「宇宙ゴミ問題は待ったなしで今後、日本を含めた各国に責任と金銭的負担を求められる可能性が大きい。その時に対応できる技術を国が持っておく必要がある」「宇宙ベンチャーは技術と資金のゲーム。一人前の技術に育てるには100億円が必要だ」。シンガポール本社の岡田光信CEO(最高経営責任者)はこう指摘する。

 とはいえ商用性が低いというわけではない。「小型衛星を多数打ち上げて、地球全体をカバーする衛星コンステレーションが現実味を帯びてきたことで、事業チャンスが生まれてきた」と技術開発を統括する日本法人の伊藤美樹社長は話す。

宇宙ゴミを除去する仕組みを説明するアストロスケール日本法人の伊藤美樹社長(写真:的野 弘路)