自転車一体型浄水装置の価格は55万円。輸出コストまでかさむと導入が進まない。そこで、現地生産の可能性を探ってみたり、浄水器そのものの販売ではなくリキシャ(自転車型タクシー)の運転手に漕いでもらい、作った水を売る方式を取り入れたりと試行錯誤を続けてきた。いわゆる途上国の貧困層向けのBOP(ボトム・オブ・ピラミッド)ビジネスだ。

 決して儲かるわけではない。2005年の創業以来、黒字決算は2回だけ。妻に道楽じゃないかとからかわれることもある。三菱レイヨンで役職定年の55歳まで働き、57歳で起業。「子供たちは独立しており、住宅ローンもなく身軽だったから踏み切れた」(勝浦社長)。

 会社員時代は広報部門が長かった。1983年に家庭用浄水器「クリンスイ」発売時の広告宣伝に携わった後は、同商品の事業部門に移って最終的には事業責任者まで務めた。その頃、自転車一体型の浄水器というアイデアを検討したが、会社としては販売を見送っている。退職後に当時の取り引き先から「やはり世の中に出したい」と相談を持ちかけられ、日本ベーシックを設立した。

 勝浦社長への取材中、時折ユヌス氏の言葉を思い出した。同氏はソーシャルビジネスについて「利益の最大化ではなく、社会問題の解決こそ目的」「環境への配慮」など7原則を定めている。最後の「楽しみながら取り組む」が最も当てはまっているような気がした。68歳の勝浦社長は新興国のスラム街に飛び込むことをいとわず、「75歳まではこのビジネスを続けたい」と語る。

 7月下旬にJICA(国際協力機構)のプロジェクトで現地に渡る予定だったが、テロ事件の影響で延期となった。それでも「家族には心配をかけるけど、近いうちに必ず行きますよ」と怯む様子はない。5年前、ユヌス氏は取材の最後に「人生は短い。世を去る時にどんな軌跡を残せるのか。若者には『自分は誰のために何ができたのか』を振り返れるように生きてほしい」と話していた。この言葉を改めて自戒にしつつ、勝浦社長のさらなる挑戦を応援したい。