7月10日に投開票となった参院選は、大方の予想通り自民党の勝利に終わった。同党が獲得した比例票は約2000万に上るが、誰がトップ当選したか知っている読者はいるだろうか。
元官僚の片山さつき氏でも、元アイドルの今井絵里子氏でもない。答えは徳茂雅之氏。一般的な知名度は低いが、今回の選挙では約52万票を獲得している。
徳茂氏の古巣は日本郵政グループだ。東京大学法学部を卒業後、旧郵政省(現・総務省)に入省。出馬前はグループ傘下の日本郵便で執行役員を務めていた。
彼を支援したのが全国郵便局長会(全特)。全国各地の郵便局長らによる組織だ。かつて郵政相を務めた田中角栄元首相によって集票組織化された彼らは、自民党の大票田となっている。
安倍首相も熱視線を送る大票田
「全特は自民党を支援して頂いている、最も強力な団体の1つであると十分に認識しております」――。5月22日、福岡市内のマリンメッセ福岡で開催された全特の通常総会。会場の巨大スクリーンにビデオレターで登場した安倍晋三首相はこう言い切った。会場には全国から郵便局長らが約1万人集まり、参院選を間近に控えた時期ということも相まって、熱気に包まれていた。
全特総会には谷垣禎一幹事長(左)や高市早苗総務相ら自民党幹部が出席した
日本郵政グループは昨年11月に株式上場を果たした。郵政民営化法の成立から10年が経過し、ようやく本当の意味での民間企業として船出したはずが、国営時代に始まった政治との蜜月関係は脈々と続く。その象徴が今回の参院選だった。
郵政関係者が熱気に包まれた参院選から半月ほど前、筆者はまったく対照的な光景を見ている。6月21~23日、さいたまスーパーアリーナ(さいたま市)で開かれた、郵政グループ初の株主総会だ。
約1万人を収容できるスペースを貸し切り、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険、日本郵政の順番で3日連続開催された。異例の同時上場を経て、3社合計の株主数は140万人以上に上る。全特総会の熱気を見ていた筆者は、「何万人集まるんだろうか」とひそかに期待していた。
だが、蓋を開ければ、ゆうちょ銀は886人、かんぽ生命は266人、日本郵政ですら1194人しか集まらなかった。ちなみに、三菱UFJフィナンシャル・グループが今年開催した株主総会は約1万人を集めている。
株主総会で痛感した「対話の重要性」
時の首相ですら熱視線を送る大票田も、民間株主から見れば新規株式公開(IPO)時の株価を下回る銘柄に過ぎず、その視線はどこか冷めている。
「がっつりと、含み損であります」。日本郵政の総会では、株主から振るわない株価への不満が出たが、“予定稿”を読み上げる旧郵政省出身幹部の回答は、どこか“官僚答弁”を彷彿とさせた。
上場した以上、株主や市場といった外の世界との対話は、これまで以上に重要になる。郵政の株主総会が、全特総会のような熱気あふれるイベントになる日は来るのだろうか。
ちなみに、総会の司会役を務めた日本郵政の長門正貢社長は「株主の皆様にご迷惑をおかけして、本当に申し訳なく思っている」と発言したが、この部分は予定稿にはなかった。民間出身者だけに、株主との対話の重要性を理解しているように見えた。
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