もう少し具体的な不正の中身を見ていく。

 JIS法違反のあったばね用鋼線は、その名の通り、ばねの材料となるステンレス製の線材だ。神戸製鋼などの調査によると、検査記録が残っている2007年4月から2016年5月までの間、合計で55.5トン分のJIS規格外品を規格品として、ばねメーカーや問屋に出荷していた。それらの用途は、ゴミ箱など家電・家庭用品等向けが79%、給湯器等のガス設備向けが12%、自動車向けが5%だった。残りの4%は、ばねメーカーや問屋での出荷記録が残っていなかったり、ばねメーカーが廃業していたりして、いまだ不明だ。

 該当のJIS規格品を材料として使う場合、30%の強度(具体的には引っ張り強度)の余裕をもたせて設計するのが一般的だという。神鋼鋼線ステンレスが出荷していた規格外品は、少なくとも規格の96%の強度を備えていた。そのため「使用中の毀損リスクは極めて低いと考えられる」(藤井・神鋼鋼線工業社長)という。

 と、ここまでは、一般紙の記事にも、おおよその内容が掲載されていた。ここからはもう少し突っ込んで、不正が起きた現場の状況を見ていきたい。

 「この現場で自分が働いていたら、同僚の不正を見破れていただろうか?」。そんな視点で読み進めていただければと思う。

 今回の不正を主導したのは、ある役職に付く人物。現在、分かっているだけでも、2001年頃から同じ役職に付く人が同様の手口で不正を働いていた。その間、何人もの人物がその役職に就いてきたが、その度に次の代へと受け継がれた。

兼務してもいい仕事、兼務してはいけない仕事

 工場には工場長の下に、(1)製造部、(2)品質保証室、(3)環境防災安全室、の3つの部署があった。製造部の中にはさらに製造課、業務課、技術課がある。製造課に所属するのは、生産ラインで機械を動かしたりモノを運んだりするスタッフ。業務課に所属するのは、日々の調達や生産管理などを担当するスタッフ。そして、技術課に所属するのは、製品の設計や生産ラインの設計など技術にまつわる仕事を担当するスタッフだ。製品の品質にかかわる設計を担当する人も、技術課に所属する。

 製造部で生産した製品が規格をクリアしているかを検査するのは、品質保証室の仕事だ。完成した製品(巨大なボビンに糸のように巻きつけられたステンレス製線材)の一部を工場とは別棟にある検査室に持っていき、特殊な機器を用いて引っ張り強度などの品質を調査する。この実務を担当するのが検査係。この工場では、検査結果を一旦、所定の用紙に書き込み、その数字をさらにパソコンに打ち込んでデジタル化するのが手順になっていた。

 業務課や技術課などのスタッフは通常、生産現場ではなく事務所にいる。神鋼鋼線ステンレスの事務所スタッフは、管理職も含めて十数人と少ない。そのため兼務者が多かった。品質にまつわるところでは、技術課で品質設計を担当する担当部長が、品質保証室の室長を兼務。その下で検査係が働いていた。

 ここまでの説明で、不審な点を見つけられただろうか?

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