その行為の結果、Uはマイナスかプラスか

 Uは地球から得られる恩恵だが、そこまで大上段に構えずに、もう少し小さな枠組みで考えれば、Uは「国、あるいは一つの業界が得られる利益の合計」にも置き換えられる。

 ここでもう一度、前ページの図を見てみよう。

部品メーカーにも今後は消費者対応コストがかかることになる。信頼関係がなくなると、自動車メーカーが部品の品質を監視するためのコストも必要になる

 右の図よりも左の図の方が、明らかに自動車業界のUは大きいことが分かる。自社のリスクを低くするという意味では「得」をする行為も、業界全体からすると「損」になり、業界の衰退、ひいては自社の衰退につながる。

 Uはあらゆる分野や物事に応用できる。記者自身も仕事で壁にぶつかると、「Uを最大化するにはどうしたらいいだろう」という視点で考えるようにしている。

 例えば、ある会社の不正を告発する記事を書くとして、その不正が明らかになると社員全員が職を失うとする。その社員には家族がいて、家族も路頭に迷うことになる。不正を告発することで、社会全体にどんな利益を生み出すのか。その利益の合計から社員や家族の不利益を除して算出するUは、プラスなのかマイナスなのか。プラスなら書くべきだし、マイナスだとしたら書かないという選択肢もある(反論はあるとは思うが……)。

 ここまでの(理想的な)悩みはそんなに頻繁にあるわけではなく、実際にはもっと小さくてくだらない悩みを日々抱えているのだが、1人の記者が持つ時間は1日24時間で平等。その限られた時間を使うなら、可能な限りUを最大化する記事を書くことに使いたいと考えている。実現できているかどうかは分からないけれど……。

デジタルの見える化でUを最大化する

 タカタをきっかけに、自動車業界のUがどんどんマイナスに転じ、結果として日本の自動車がグローバル市場で競争力を失う。そうなることだけは避けなければならない。

 その解の一つとして提案したいのは、部品の品質を保証するのに必要なコストを自動車業界全体、あるいは国全体で支援するというやり方だ。

 例えば、品質検査を自動化してデジタルデータとして残すのに必要な設備の導入や、品質の不具合をすぐさま検出できるように生産設備をIoT(モノのインターネット)化するのに必要なコストを、業界全体で拠出するというのはどうだろう。上の図の右側でかかる監視コストの一部を前倒しし、「デジタルによる品質の見える化」に使うのだ。

 デジタルによる見える化は、「見えなくても信じているよ」というこれまでの日本らしい美徳から離れ、少し寂しい気もする。だが、優先すべきは手段ではなくUの最大化だ。過去を反省するのも大事だが、ポスト「タカタ」時代に業界全体で取り組むべきは、未来のために今、どう行動するかにあるのではないだろうか。