フクズミのように顧客の信頼感のつかみ方が独特で常連客を抱える店もあれば、希少性と高い技術力で人気を集める店もある。そのひとつが久留米の洋裁店「ぼたんや」だ。西鉄久留米駅周辺にあるベルモール商店街にある。シャッターをおろす店も目立ち、活気が少ない典型的な地方の商店街だ。

 ぼたんやの加藤幸恵社長は「昔はぼたん屋さんはたくさんあったけどもう専業でやっているのはうちくらい」と話す。82歳の加藤社長は昭和30年代からお店を切り盛りしてきた。品ぞろえの豊富さの噂を聞きつけて東京からも買い求めにやってくるという。

 ぼたんやは1万種類以上の在庫を抱えている。60年前から店頭に並ぶボタンがあるほどだ。ボタンは1個から販売するが、仕入れはダース単位。12個のボタンがすべて売れるとは限らず在庫として残ることもある。それが品揃えの豊富さにつながっているのだ。「ボタンは4つ売れたら採算が合う。残りが売れたら利益になる」(加藤社長)。超滞留在庫のなかには、売れたら売れた分だけ儲けになるボタンが少なくない。そして、なんでもあるという安心感が顧客をひきつける。

顧客のためにノーと言わない

店主の加藤幸恵社長(左)と娘の三角恵さん。30年分の在庫と技術力を武器に顧客を囲い込む

 ぼたんやの特徴は豊富な品揃えだけではない。常連客が頼りにするのが加藤社長らの高い技術力だ。その代表例が「穴かがり」。穴かがりとはボタンホールのことで洋服づくりには欠かせない。ぼたんやの主な顧客は洋裁教室に通う生徒だ。シャツやカーディガンなどを縫うものの、穴かがりは特殊な技術が必要とするため生徒にとって荷が重い。加藤社長らが洋裁教室を回って御用聞きのように、ボタン販売のほか、穴かがりや裏地の取り付け作業を承う。

 さらに洋裁教室に通う生徒が上達すると、仕事を発注する。収入を得られる道を作ることで新たな担い手を生む。洋裁需要を掘り起こせる循環も作っている。

 技術はほかにもある。クリーニング店が顧客のボタンをなくしたときに同じボタンがなくても、加藤社長がボタンに色付けして同じものを作ってしまう。店の奥にある台所で鍋のなかに、染料を配合して色付けする。「どんな作業でも絶対にノーと言わないと決めている」(加藤社長)。原価は染料だけで技術料が大半を占める。どこにもない高い技術力を武器に、常連客の信頼を勝ち取っている。

 この二社に共通するのは顧客の要望にとことん向き合う売り方を実践していることだ。一見すると非効率にみえても、長い付き合いをすれば利益を確保できる。長く続いたデフレの影響で、消費者はいまも1円でも安く買おうとし、買い物のたびに店を変えようとする。大企業はポイントカードの購買履歴を分析し、顧客のことを理解しようとしている。だが、2社のような深い顧客心理まではあぶりだせないだろう。地方にある成長分野でもない業態の店から学べることは多そうだ。