「日経ビジネス」6月27日号のスペシャルレポートでは「科学で解明『呪いの商業用物件』」というタイトルで、悪立地をテーマに取材した。筆者が飲食店経営者向け雑誌の編集部につい最近まで在籍していた経験から言えるのは、多くの飲食店経営者が自店の立地を悪立地だと思っていたことだ。そのため悪立地対策の記事は読者から必ずウケる「鉄板ネタ」として、定期的に紹介していた。6月27日号のスペシャルレポートでは主に人間心理や行動パターンの面から普遍的な視点で悪立地が生まれる背景を探った。それに対して、この原稿では飲食店の立地という側面に絞って、「悪立地」の正体を検証したい。
まず悪立地とは、何らかの理由で集客に苦戦する立地のことだ。今は「食べログ」の様に店を消費者が評価するサイトもあるため、立地に恵まれない店でもお客の評価さえ高ければ、そのマイナスをかなりカバーできる時代になっている。加えて、スマートフォンのGPS機能を使えば、地図が無くても分かりくい場所にある店まで迷わずたどり着ける。
それでも悪立地は存在し、そうした場所にある店が頻繁に閉店し、入れ替わってもいる。悪立地にはどういった傾向があるのか? データの面から分析し、明らかにしたのが、飲食店開業者を支援するサイト「飲食店.COM」を運営するシンクロ・フード(東京都渋谷区)だ。
同サイトでは、開業希望者のために不動産会社から提供された物件情報を首都圏を中心に3000件以上登録している。その同社が紹介する首都圏の物件の平均的な家賃と店舗面積はそれぞれ月額51万円と26坪だった。
それに対して同社の登録物件を過去10年分までさかのぼって、駅から徒歩5分以内で地下1階から2階までという一見すると好条件の物件でありながら、1年に1回以上といった高い頻度で店が入れ替わっていた「ワースト50」の「悪立地」物件のみを抽出し、家賃と店舗面積の平均を算出した。すると、その結果は家賃月額48万円に対して店舗面積は20坪だった。
狭い店は収益面で不利になりがち
比較すると「悪立地」の物件の平均は、物件全体の平均に比べて6坪分だけ狭い店であることが分かる。その狭さが影響するのが収益の源泉となる客席の数だ。
飲食店経営のベテランコンサルタント、FBAの石田義昭代表は「望ましい客席の数は店舗面積(坪数)の1.5倍」と話す。26坪の店なら席数は39席。20坪の店なら30席の席数を確保することが望ましいということだ。
しかし、効率よく客席を配置できたとしても、狭い店は収益を伸ばしにくい。仮に客単価3000円の同じ業態を選択した場合、26坪の店(客席は39席)は。1日に1回転(来店客数を席数で割った数値。39席の店に39人が来店すれば1回転となる)できれば11.7万円の日商となり、月間(週休1日で26日の営業と仮定)では304万円の売り上げを確保できる。一方、20坪の店(客席は30席)は1日に1回転した場合、9万円の日商となり、月間では234万円の売り上げにとどまる。たった6坪の店舗面積の差であり、家賃の差はわずか月額3万円。にもかかわらず、売り上げの差は月間70万円にまで大きく開く。
店舗面積の狭い店の打開策としては、多くのお客を集めて店の回転数を増やし、弱みをカバーすることがセオリーだ。実際、シンクロ・フードが調査した「ワースト50」の物件の中にも、商品やサービスの面で店の魅力を高めて今では「食べログ」などでの評価も高い人気店がいくつもある。
そこで出店前の準備の段階で大切になってくるのが、「自店のお客様になってくれそうな人がどれくらい周辺にいるのか、店を借りる前に人通りや競合店を入念に調べること」(シンクロ・フードの石井昌彦マネージャー)だ。意外に思うかもしれないが、飲食店の出店希望者は収益の見通しを甘く見積もりがちで、それが次々に店が潰れる原因となっている。
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