「自分の現状を知ってもらいたい」「文面では分からないこともある。実際に働いている人の話を聞いてみたい」と思ったAさんは、ラッシュの店舗に足を運んだ。

 ラッシュの店舗で対応してくれたのは店長だった。自分がトランスジェンダー(身体の性と心の性が一致していない人の総称)であることや、就活できなくて困っていることなど、すべて話した。店長は親身になって聞いてくれた。

 その日をきっかけに、たびたび店舗に行くようになった。そのたびに店長含めスタッフは親切に対応してくれた。

 3か月後、スタッフの1人が異動したのをきっかけに、Aさんはアルバイトとして働き始めた。大学4年生の夏から働き始め、もうすぐ2年になる。大学卒業と同時に契約社員になった。

2015年にラッシュが行った「WE BELIEVE IN LOVEキャンペーン―LGBT支援宣言―」の店頭での様子。来店客に写真の宣言ボードにハートを描いてもらい、ハートをLGBT支援への賛同としてカウント。オンライン署名サイトなどでも賛同の声を募り、店頭での支援宣言とともに北海道札幌市などLGBT支援に積極的な自治体に提出して取り組みを応援した。

 「私が働くにあたって一番重視したのは、働く環境です。会社がLGBTに寛容だと言っていても、一緒に働いている従業員が寛容じゃなければ働きづらい。ラッシュで働いていると、良い意味で何もなく、ありのままでいられる。店舗の仲間も特に何も聞いてこないし、一人の従業員として接してくれる」

 Aさんは、ラッシュの店舗に足を運んだことも、アルバイトとして働き始めたことも、「自分なりの就活だった」と語る。アルバイトとして働くのはインターンシップのようなものだったという。この仕事は自分に合っているか、この職場で働いていけるか。実際にアルバイトとして働く中で知ることができた。

 Aさんの場合、店舗への訪問が就職につながったが、通常の応募はエントリーシートの提出から始まる。ラッシュはエントリーシートでも、性別欄を撤廃し、性別にかかわらず誰でも応募できるよう配慮している。

性のあり方は多様だ

 2015年に電通ダイバーシティ・ラボは、無作為に抽出した全国約7万人を対象に調査を実施した。その結果、調査対象者の7.6%がLGBTを含む性的マイノリティだと判明した。約13人に1人の割合だ。

 LGBTといっても内実は様々だ。下の図は、性のあり方を分かりやすくまとめてある。記者は、身体の性も心の性も女性で、恋愛対象は男性だから10番。Aさんは、身体の性は男性だが心の性は女性で、恋愛対象は男性だから4番。中には5番や7番のようにトランスジェンダーかつ同性愛者の人もいる。

分かりやすくするために簡易的に分類しているが、性のあり方は千差万別。分類できるようなものではなく、性のあり方はまさに虹のような「グラデーション」(出所:電通ダイバーシティ・ラボ制作の「セクシュアリティマップ」)

 しかし実際のところ、性のあり方は明確に分類できるものではない。異性愛者と同性愛者のはっきりとした境界線があるわけではないし、そもそも人に対して恋愛感情や性的欲求を持たない人もいる。男女どちらの性別にも属していないと感じている人もいる。「性のグラデーション」という言葉があるが、その言葉通り、性のあり方は人それぞれ。同じ異性愛者でも、あなたの「異性愛」と私の「異性愛」は異なる。