はっきりしない投資の目的

 ハンバントタの住民が話すような、「中国化」していくことに対する根源的な不安や、軍事利用に対する懸念が晴れないのはなぜだろうか。

「政府なのか民間なのか、中国のインフラプロジェクトは誰が主体となっているのかはっきりしない場合が多い」。ある国の援助機関関係者は言う。プロジェクトを進める主体がはっきりしないということは、つまりその目的も、中国以外の関係者からすれば容易には把握できないということだ。

 たとえばスリランカのハンバントタ港は中国政府が100%出資する金融機関、中国輸出入銀行からの融資を中心にして建設された。「この投資は、(中国による)自国の輸出入を拡大するための輸出金融の枠組みで行われた」とある関係者は話す。ただハンバントタに港を建設することの経済合理性については、多くの関係者が「当初から懐疑的だった」と話す。「それは中国側もわかっていたはず、だから実態は輸出金融とはいえ『援助』に近いローンだった」(同)という。だが一部の融資には6%という、援助の枠組みでは「考えられないほど高い金利」(同)がついた。

 足元でハンバントタ港は自動車積み替え基地として一部機能してはいるものの、当初の想定通りスリランカ政府が融資の返済に回せるほどの収益を稼ぐ見込みは立たなかった。中国向けを中心とした対外債務が積み重なり、財政難に陥っている政府は結局、デットエクイティスワップ(DES)と呼ばれる手法で債務を株式化し、財務改善するしか手がなかった。

 日本を含む先進国による途上国への投資や援助については、その目的をはっきりさせ、双方を混在させないようにするのが一般的だ。だからたとえばJICA(国際協力機構)が、自国の貿易拡大を目的に融資を行うJBIC(国際協力銀行)と組んで事業を実施することはない。

 また国が関与する各々の援助や投資については、当該国を含めた各国と広く情報共有している。だが中国はこうしたルールを踏襲せず、援助機関の国際的な枠組みからも距離を取る。「中国が国際的な援助機関の会合に顔を出すところを見たことがない」とある国の援助機関関係者は話す。

中国のインフラ投資を前に渦巻く複雑な感情

ハンバントタ住民の「中国に根こそぎ奪われてしまうのではないか」という不安は、スリランカ以外の複数の国でもよく耳にする。中国側もその懸念については把握しており、ある国の日本の援助機関の元には中国政府関係者が「イメージを改善するにはどうしたらいいのか」と相談に訪れる。

 とはいえ、投資の線引きが曖昧なままでは、中国が投資対象国の国民、住民の不安を払拭することは難しいだろう。中国資本が流入しているカンボジアのある住民は「中国が開発した港が軍の基地になることだって十分にあると思う」と話した。投資は欲しい、だが中国を除いてインフラ投資をしてくれる国は少なく、「中国化」する不安を抱えながらも彼らに頼らざるを得ない。そんな複雑な感情を、一帯一路イニシアチブの進路上に位置する多くの国・地域の住民は抱えている。