(c) SCIENCE PHOTO LIBRARY /amanaimages

 消費者には見えないところで、製薬業界の“地殻変動”がじわじわ起きている――。筆者は今年4月、医師や薬剤師向けの月刊誌の編集部から『日経ビジネス』に異動してきた。これまでは発売後の新薬の情報を伝えてきたが、その新薬を生み出す側の製薬業界を取材するようになった今、各社の開発パイプラインはもちろん、研究開発体制や医薬情報担当者(MR)の置かれた状況などが10数年前とは大きく変化していると感じる。

 最も大きな変化の一つは、研究開発の中心が「低分子化合物」から「バイオ医薬品」へと移ったこと。2000年代前半までは、高血圧や糖尿病、高脂血症といった患者数の多い疾患を対象とした「低分子化合物」が世界の医薬品売上高ランキングの上位を占めていた。だが低分子化合物の開発は飽和状態に達し、研究対象はがんや希少疾患にシフト。特定の免疫システムやたんぱく質をターゲットとする「バイオ医薬品」の占める割合が増加の一途をたどっている。

 製薬業界の情報分析サービスを提供しているエバリュエートファーマ社は、2022年の世界の医療用医薬品の売上高は1兆1200億ドルに達し、うち29%をバイオ医薬品が占めると予測している。現在、世界で多く使われているバイオ医薬品には、関節リウマチ治療薬の「ヒュミラ」「エンブレル」、抗がん剤の「リツキサン」「アバスチン」「オプジーボ」などがある。

 化学合成で製造する低分子化合物は、量産しやすい半面、生体内の正常な細胞に入り込んで副作用を起こすリスクがある。一方、バイオ医薬品は特定の細胞や原因物質をピンポイントで狙うようにつくられているため副作用が起こりにくいが、その分、バイオ医薬品を見つけるのは容易ではない。さらに、微生物や培養細胞といった“生き物”を使って製造するため、品質管理や安定供給が難しい。

 1つの薬が世の中に出てくるまでには、大きく分けて、

  1. 薬の候補物質を見つける「探索」
  2. 候補物質の毒性や有効性などを調べる「非臨床試験」
  3. 健康な人や対象疾患の患者に投与して有効性や安全性などを調べる「臨床試験(治験)」

――というプロセスがある。これまで製薬企業は、1.から3.まで一貫して自社で行ってきたが、開発の中心がバイオ医薬品に移って以来、1.の探索過程は創薬ベンチャーや大学が担い、製薬企業はそれを導入し、2. 3.の臨床試験に入る段階で製造をアウトソーシングする流れが生まれつつある(もちろん自社で創薬から製造まで手掛けるケースもある)。