しかし、森長官は、あえて怒りの態度を前面に出している。冒頭の証券会社批判は、日本証券アナリスト協会が主催した国際セミナーでの一幕。証券業界関係者が数多く出席し、メディアなどの注目も集めやすい場。そこにあえて森長官は、「これまでのやり方を続けていては、今後10年経っても20年経っても何も変わらす、日本の資産運用業は衰退していく」「まずくて高いレストランは淘汰されていく」など厳しいコメントを盛り込んできた。心の底から怒っている、というよりは、そのようにあえて自己演出している側面が強い様に思われる。

 金融庁にとって、ここ数年は勝負の時だ。来年には積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)の開始を予定。今年制度が拡大した個人型確定拠出年金(iDeCo)などの税制優遇策をテコに、個人の資産運用を促したい狙いだ。

金融庁創設20年で最大のチャンス

 米国では1980〜2000年台に確定拠出年金の制度拡充など、政府主導の改革によって、投信や株式投資が急速に進んだ経緯がある。

 米国が経験したビックウェーブを日本でも起こしたい。矢継ぎ早に制度改革を打ち出している今が、金融庁発足からの20年で最大のチャンス 。森長官には、こういった思いが強いのだろう。

 一方、国内の大手証券会社にとっては、顧客本位の長期視点での商品販売は、短期的に利益を押し下げる要因となる。手数料を多く取れる毎月分配型の投資信託を売り、局面が変わるごとに他の商品を紹介した方が儲かるというのは言うまでもない。当面は顧客本位を掲げる金融庁の顔色を伺うが、隙あらばコストの高い商品を売り出して経営を安定させたい。どんなきれい事を言おうとも、それが本音としてはある。

 森長官としては、NISA、ジュニアNISA、つみたてNISA、iDeCoと、ありとあらゆる策を繰り出す大勝負にでているときに、証券会社に足を引っ張られたくはない。貯蓄から資産形成へ、短期志向から長期投資へ、という流れが軌道に乗るまでは徹底的に証券会社に睨みをきかすという意思表示なのかもしれない。

 少子高齢化が進む日本では、将来的に公的年金制度が現在の水準を維持できる可能性は非常に低くなっている。各個人が 資産形成を早い段階から進める必要があるという点は紛れもない真実。金融庁の改革には意味がある。

 森長官が大げさに怒るのは、最初で最後のチャンスを取り逃したくないから。当面は、森長官の怒り姿を目にすることが増えるだろう。