「カーシェアユーザーの気持ちなんて分からない」

 堀副社長自身は「スポーツカーで遊び回っていた世代」。「ファン・トゥ・ドライブ(運転する楽しさ)」が骨の髄まで染みこんでいて、日本でも徐々に浸透しているカーシェアリングですら「正直、ユーザーの気持ちを全く理解できない」。

 しかし、運転する楽しさを追求して脈々と続けてきたモノ作りがコモディティー(汎用品)化して、ソフトウェアや自動車関連サービスに利益を奪われるのではないか、という懸念も募る。「乗り心地や安全性を追及する会社の姿勢は永久に変わらない。でも・・・ユーザーの望むモノはどんどん変わっている」

 シリコンバレーなどで開発が進む「空飛ぶクルマ」も、未来の出来事ではなく目の前に迫る現実と捉えている。「(高級車ブランドの)レクサスの馬力と軽さなら、羽根さえ付ければ直ぐに飛べる」からだ。次世代モビリティーが市場を席巻するとき、トヨタ紡織の勝ち筋はどこにあるのか。「何ができるか分からないが、まずはシリコンバレーに行かなければと思った」。

 新拠点には中堅の技術者とデザイナー2人が駐在し、日々コンソーシアムや新進気鋭のスタートアップに通い詰める。送られてきたレポートから立ち上がるシリコンバレーの熱気。20代前半の若者が日本のカーシェアの遙か先を行くモビリティーサービスを編み出している。

 例えば、トラックの自動隊列走行。日本でも実験が行われているが、シリコンバレー発のサービスは更に先進的だ。不特定多数のトラック運転手をクラウドサービスで繋ぎ、目的地に応じて希望者を募って隊列を組む。後続車の運転手は休憩ができ、空気抵抗の低減により燃費も浮く。節約できるコストは参加者で折半し、管理者は手数料で稼ぐ。「実際に利益を出せていることがシリコンバレーのすごいところ」(堀副社長)。

 もちろんシリコンバレーに拠点を置いてレポートを眺めるだけでは、解決策にはつながらない。内装部品にどのような価値基軸を加えていくことができるのか「正直まだ全く分からない」(堀副社長)。人工知能が体調や走行状況に応じて快適な車内環境を整えるシステム、敢えて快適な位置に姿勢を保持せずにドライバーの体幹を鍛えるシート、あるいは内装を通じて移動時のサービスを提供できないか──。試行錯誤しながら社内で検討を続けている。

 ローランド・ベルガーの貝瀬斉パートナーは「シリコンバレーに行っても、目先の新規事業を成功させることだけに終始して、開発のスキームを本社に取り込むところまでいかない日本企業がほとんどだ」と指摘する。一方、トヨタ紡織の取り組みは「新たな価値基準を見つけようとしている点で、シリコンバレーの変化の速さを本社も正面から受け止める覚悟ができているのではないか」と評価をする。

 豊田紡織の創業から間もなく100年。積み上げてきた人間工学や擦り合わせのノウハウに「絶対の自信はある。ここで我々は勝負する」(堀副社長)。産業ピラミッドを破壊しようとする新規参入者の懐に敢えて入り込み、シリコンバレーで武器を磨こうとしている。