英会話やスポーツも教える
学童保育に関しての救いは、施設の基準や職員数などの面で、企業にとって参入障壁が比較的低いことだ。鉄道や学習塾、イオンのような流通業までたくさんの企業が学童ビジネスに乗り出してきた。スポーツや英会話に力を入れるなど「放課後に児童を預かる」以上の付加価値を打ち出している。

記者は民間学童「グローバル親子クラブ」(東京都品川区)を4月末に訪れた。ここは「平日の放課後にプチ留学」というコンセプトで運営しており、主に英語圏出身の留学生たちが児童に英会話を教えたり、一緒に遊んだりする。代表の藤巻奈津子さんは高校、大学、大学院で3度の留学経験を持ち、外資系企業での勤務を経て起業した。自身も5歳児を育てるワーキングマザーだ。「物理的な参入障壁は高くないかもしれないが、簡単なビジネスではない。『プチ留学』という特色を保護者に評価してもらえた」と語る。今春開園したばかりだが、利用児童は15人を超えている。
取材当日は小学校1~2年生の子供たちがスイス人の先生とゲームに興じていた。驚いたのは子供たちのリスニング能力の高さ。発音もいわゆるカタカナ英語ではなく、耳から入った音をそのまま再現しようとする。クイズに正解して褒められたある児童は「It's too easy!」と切り返していた。好奇心が強い子らしく、習わずとも先生の言い回しを真似てしまったようだ。開校している午後2時から7時までの5時間たっぷり英語漬けになる。毎日来ていると「生活に根差した英語」(藤巻さん)が自然に身に付くわけだ。
預ける時間などによって異なるが、一般的に低学年だと小学校と学童それぞれで過ごす時間に大差はない。お金に余裕がある家庭では、特色ある教育を打ち出す学童を選ぶケースも多い。ほとんどの学童は月額1万円未満で利用できるが、企業が運営する高級学童ではオプションサービスまで加えると10万円近くになることもある。グローバル親子クラブでは月から金まで毎日預けると約6万円かかる。
民間企業に参入のチャンスがあり、児童や親にとって選択肢が増えるのは悪い話ではない。子供の早期教育に熱心な親も多いだろう。だが、これは問題の根本的な解決につながらない。参入企業が永続的にサービスを提供できればよいが、黒字化を果たせず撤退すれば振り回されるのは子供であり、子供の預け先を失って働けなくなるのはその親である。
先月政府がまとめた「ニッポン1億総活躍プラン」では、学童の定員を従来計画より1年前倒しして2018年度末までに120万人に拡大する目標が盛り込まれた。プランでは指導員の処遇改善や、学校の空き教室や児童館の活用についても言及している。「生活の場」としての学童のあり方について、議論がより深まることを期待したい。
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