競合他社は収益重視に舵を切った
ヤマトには、日本全国の宅配インフラを担うという矜持がある。どんなに荷物が少ない地域であっても依頼されれば、荷物を扱う。社会貢献として評価が高い取り組みであり、地方においては客貨混載などで負担を減らす取り組みを進めている。
ただ、都市部においても公的サービスの側面が強すぎると、収益力の低下を招く。大口顧客と大幅値引きした運賃で契約し、不在宅には何度も配達をする体制をとってきた。
割引率の高い大口顧客の荷物が想定以上に増え、人繰りが追い付かなかったため、残業代の支払いなどでヤマトの収益は大幅に低下した。親会社のヤマトホールディングスの2017年3月期の営業利益は、前の期比49%減の348億円だった。
その一方で、競合他社はこの数年、収益重視に舵を切ってきた。日本通運は宅配事業のペリカン便を日本郵便に売却した上で企業間物流(BtoB)に注力するなどして構造改革を進め、2017年3月期の営業利益は同5%増の574億円と、ヤマトを抜いた。
佐川急便は2013年にネット通販大手のアマゾンジャパンとの契約を打ち切り、BtoB事業に強い日立物流と提携するなどして収益重視を鮮明にしている。

ヤマトも競合他社と同じように法人間の荷物を扱うBtoB事業を強化してきた。2013年に宅急便以外の事業を強化する目的で「バリュー・ネットワーキング」構想を発表した。24時間稼働するゲートウェイなどの大型物流拠点が可能にする多頻度輸送を武器に、国際物流やBtoBの物流事業を強化するという構想である。
4月にその現場を見るために沖縄に飛んだ。朝3時頃、那覇空港に全日本空輸の貨物機が次々と着陸してくる。中からはヤマトのロゴが入ったコンテナが姿を現す。
当日は鹿児島からハマチが届いていた。その後すぐに香港に輸送され、当日中に香港の店に並ぶという。
那覇空港はアジア各国に4時間以内で航空輸送できるため、ヤマトは那覇空港を経由して、日本の海産物などの荷物を輸送する体制を整えた。だが、スピーディーに荷物を受け取る需要が高まっておらず、取扱量は十分に増えていないようだ。
また、那覇空港の隣接地にはサザンゲートという物流拠点を整備した。企業が補修部品の在庫を集約し、アジアに商品や部品を輸出する体制を支援している。
しかし、この取り組みについても期待したほど、法人顧客が増えていない。関係者は「既に大手企業は国際物流ネットワークを築いている。その仕組みをあえて壊してまでサザンゲートを使ってもらうのはハードルが高い」と話す。
BtoB物流が主流の「BIZ-ロジ」事業は17年3月期の営業利益が約40億円で、この10年ほど伸び悩んでいる。
経路依存型経営の殻を破れるか
ヤマトは公的サービスと収益体質強化のジレンマに苦しんでいるように見える。しかし、公共サービスを維持するためには、収益力を高めなければならない。
早稲田大学の根来龍之教授はヤマトの経営についてこう指摘する。「経営モデルを経路依存型と構造変革型に分けると、ヤマトの経営は前者に当たる。宅急便ネットワークに代表されるように模倣困難性が高いが、大きな構造変化に弱い難点がある」
従来のビジネスモデルでは、ネット通販の急増によって公的サービス維持と収益強化の両立が難しい。ヤマトは今こそ、ネット通販が急増する新たな時代に合わせた宅急便ネットワークの構築が急務だ。
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