言葉だけでも、手話だけでもない

 手話は単に手を使って表す記号ではなく、会話だ。だからこそ門氏は自身のコンセプトを「手話(ハンド・サイン)」ではなく、「ハンド・トーク」または「トーキング・ハンズ」と呼ぶ。

 「流れるように話すことだけが伝える技術ではなくて、要点をぽんぽんと置いてその間にある意味を伝えようとするという方法もあると思うんです。音楽や映像、写真も、あえて省くことで力強い表現になっている。手話も同じだと思っています。言語なので、人によって身体の使い方の大きさや表情にはその人の癖が出てきます。テンポもあるし、手をたたく音や息づかいといった、本人が意図しない情報もある。手話を少し忘れかけていても、目の動きや息づかいや手の音にぐーっと集中して、その人がなにを言おうとしているのか感じ取ろうとすると、本当に分かってくるんです」

 人間が全身でなにかを伝えようとする瞬間をとらえる力。それが門氏の作品の強い魅力となっている。そしてジラファンこそ、その魅力を見事に体現するキャラクターといえるだろう。

 「ジラファンがどうやって誰かと出会って自分を表現していくか。それを考えて何度も描いているうちに、このかたちになったんです」

 遠くまで見るための長い首に、よく聴き、手話で伝えるための大きな耳。門氏はコミュニケーションの成り立つ瞬間に人格を与えた。関心は手話だけにとどまらない。料理で伝え合う動物たちや、絵で伝え合う動物たちなど、構想はコミュニケーションを軸に多方向に広がっている。いずれのキャラクターも鮮やかに可愛らしく表現され、そこから自然とメッセージに引き込まれる。

 「誰でも入りやすい入り口をつくりたい」というのが門氏の願いだ。

 「そこで手話に興味を持ったら、ろう文化のアイデンティティのような深い話に入っていって欲しいです。そこには僕よりもっと詳しい人たちがいますから。でももっとライトに楽しみたいというのもいい。僕としては、人が集まるところ、たとえるなら渋谷や原宿のようなところに入り口をつくる仕事がしたいと思っています。手話こそが素晴らしいのだといいたいわけではなくて、身体表現や伝えることに気づいてしまえば、あとは歌でもダンスでもなんでもいい。手話に出会ったことでそれに気づくというのは、本当によくあることなんですよ」

 健聴者は「言葉だけがコミュニケーションではない」と、ろう者は「手話だけがコミュニケーションではない」と、相互に学び合う余地がある。

 門氏のマネジメントを行うHandmade Creativeの正岡和寿(まさおか・かずとし)社長がネスレ日本の槇亮次(まき・りょうじ)マーケティング部長にジラファンをプレゼンしたことから、コラボレーションが始まった。槇氏は一目で絵に引き込まれたという。

 長期的な視点でライフタイムバリューを積み上げるのがキットカットのブランド戦略だ。人が誰かと一緒に思い出をつくる場面から発想し、これまでも受験生や震災復興の応援、観光地土産、プレミアムギフトなどの機会をとらえた企画を開発してきた。手話の持つ新鮮さや驚きも相まって、コミュニケーションを作品の軸とする門氏の作風はハロウィン版キットカットにぴたりとはまった。

 パッケージ上でジラファンが示すハンド・トークは「きっと!」、つまり約束を意味する。そこにはネスレ日本の狙いとともに、伝えること・つなぐこと・出会うことを考え続けてきた門氏の願いも込められているのだろう。

 昨年のハロウィン仕様キットカットの発売直後、ろう者や彼らを支援する人々から大きな反響が返ってきた。単に手話を取り上げるのではなく、キャラクターを通じてろう文化をクリエイティブに展開する。そんな姿勢に対する感嘆の声も多かった。

 「手話のデザインが自分の専売特許だとは全く思っていないです。俺が最初に見つけたけど、みんな真似して広まると思っていました。でも意外と真似されなかった。20年ほど前は、手話や福祉といったものは手を出しづらい空気があったのかもしれません。でもこの2、3年は、社会の反応が全く違います。キットカットへの反響の大きさもそうです。2020年の東京オリンピック・パラリンピックも含めいろいろな要素があって、すごく変わってきている感じがします。今後2、3年で、自分と違う人たちとどうつながるかという意識がぐっと高まっていくと思うので、今こそみんなのチャンスだと感じます」

 そう語る門氏の口調には、静かな熱が宿っていた。

5月下旬にラスベガスで行われた「ライセンシングエキスポ2018」での制作の様子。現在、門氏の作品を生で見る機会は、個展ではなくもっぱらライブペインティングだ。