壁画を描く仕事で、絵の可能性に気づく

 そんな彼に転機をもたらしたのは、人づてに回ってきた壁画の仕事だった

 当時、数カ月後に改装工事を控えた地元の老舗百貨店のビルの壁が、がらんとして寂しい姿を商店街にさらしていた。その壁を絵で飾る仕事が門氏に託された。

 「制作中の絵を見に来た人が『この絵の前で待ち合わせしよう』と話しているのを聞きました。ならば待ち合わせをしている人を絵の中にも描けば、一体化して面白いと思ったんです。差し入れに来た両親も『自分たちもろう者同士で待ち合わせるときは、この絵の前にしよう』と盛り上がっていたので、だったらここにろう者も来るなと思って、手話をしている人も一緒に描き込んだんです」

 今につながる制作コンセプトが生まれたのはそのときだった。
 壁画に対し、予期せぬ大きな反響が返ってきた。描かれた手話をヒップホップのサインだと勘違いし「かっこいい。Tシャツにしたい」と言う知人もいた。手話だと告げると彼は驚き、門氏は待望していたデザインの仕事の機会を得ることになった。一時は美術系高校への進学を阻んだ色覚障害も、ここにきて彼の重要な個性となった。

 「色には自信がなかったんですが、壁画で初めて色鮮やかなペンキを使いました。すると、俺が目の前で描いているのに、通りがかる人たちは壁画を外国人アーティストの作品だと勘違いしたんです。でも、色が変だとは誰にも言われませんでした」
 仕事ではハンディキャップでも、作品なら個性になる。今では色づかいが門氏の作品を特徴づける重要な要素だ。回り道の末、持っているものと望むものがカチリと噛み合った。