本業とは別で収入を得る「副業」。もし会社が副業を奨励しているのなら、小遣い稼ぎやキャリアアップのためにやってみたいと考える人は少なくないはずだ。
記者は先月、2012年から副業制度を導入しているサイボウズを取材した。制度解禁から4年が経ち、現在十数人の社員が副業中だという。社内の制度としてすっかり馴染んでいるようだ。
「副業と言えばサイボウズ」とのイメージもつくほど同社の副業制度は広く知られているが、日本では多くの企業で「専業」が一般的だ。サイボウズ以外の大手企業では、これまで副業導入の事例があまりなかった。しかし、ここ最近、大手企業の間でも副業解禁の動きが出始めていることをご存知だろうか。
メーカーでも副業解禁の動き
まずはロート製薬。今年の4月から社員の副業を全面的に解禁した。本業に支障がない範囲で、週末や終業後に他社やNPO(非営利組織)などで勤務できると言う。サイボウズなどリモートワークがしやすいIT企業ではなく、ロート製薬のようなメーカーが副業制度を導入するのは珍しい。メーカーの場合、万が一の技術流出を懸念する企業が多いことも、副業に前向きではない理由の一つだった。
山田邦雄会長兼CEO(最高経営責任者)は、「社員は専門性の高い仕事が多いのに加えて、長くうちの会社で働いてくれている。専門知識や経験はすごくあるが、逆に言うと、幅を広げることに対してはあまり積極的ではない。ロート製薬の社員として今後続けていくなかで、幅を広げてもらいたいと思った」と導入の背景を話す。
現在は週末や終業後のみでの解禁だが、「一歩先には週3日、半分はそちらの仕事(副業)を、となるかもしれない」(山田会長)と言う。きちんとした規約を設けたうえで、社員を会社に閉じ込めるのではなく副業を通じて外の世界を経験したほうが、社員も会社も成長できると考えているのだ。
クラウドソーシング大手のクラウドワークスも6月から就業規則を改定し副業制度を解禁した。ロート製薬同様、本業に支障をきたさない範囲で自由に副業をしてもいいと言う。この4月から試験的に始めており、既に副業中の社員も複数いる。アニメーションの制作・演出・進行などを受注している社員のほか、「20代のビジネスパーソンを対象にワークショップを開く団体を運営し、月に1万~2万円程度の収入を得ている社員もいる」。こう話す広報部の稲増祐希さんも、6月中旬から西荻窪のコワーキングスペースで「朝カフェ」を経営する計画だ。
クラウドワークスの場合、副業の導入は社員のキャリアップだけでなく、「ドッグフーディング的な位置づけが大きい」(佐々木翔平CFO=最高財務責任者)。自社で開発した商品やサービスを自社の社員が実際に使って改良していくことを「ドッグフーディング(DogFooding)」と言う。クラウドワークスが提供するサービスは、企業がネットを仲介して個人に仕事を外注するクラウドソーシング。社員自らが自社のサービスに登録し、実際に外注した仕事をこなして収入を得ながら、サイトの使い勝手やサービス向上を図っていく考えだ。
副業のボーダーラインが曖昧に
minne(ミンネ)のスマートフォン用アプリ画面。登録する作家は、アクセサリーなどの雑貨作りを専門にしているプロのほか、趣味で始めた主婦や会社員なども。月に数十万円を稼ぐ人気作家も多くいる。
まさに、こうしたクラウドソーシングやCtoC(個人間取引)サービスの拡大も、企業の副業解禁を後押しする背景につながっている。
記者は最近、「minne(ミンネ)」と呼ばれるサービスを多用している。ミンネとは、GMOインターネットグループのGMOペパボが2012年から運営する個人同士がハンドメードの商品を売買するサイト。現在22万人を超える作家が登録されており、手作りのアクセサリーや家具、お菓子など計276万点の作品を販売・展示している。
商品を出展する作家は、空き時間を有効活用したいと考える主婦などが多いが、たまに作家プロフィール欄に、「趣味でアクセサリーを作っていますが、普段はスーツで過ごしている会社員です」「本業があるため、注文が集中すると発送が遅くなります」などの文面を見かける。彼女たちが一体どれだけ稼いでいるかは分からないが、会社員が本業の傍ら雑貨を作り、販売し収入を得ていれば、それは立派な副業だ。
こっそり副業している会社員は、実際かなり多くいる
「クラウドソーシングやCtoCが広がったことにより、『副業』のボーダーラインははっきりと引きにくくなっている」。クラウドワークスの佐々木さんもこう指摘する。ミンネのほか、衣料品などを売買するフリーマーケットアプリ「メルカリ」や、自宅の空き部屋などを貸し出す「エアビーアンドビー」、個人の特技やスキルをネット経由で取引する「ココナラ」など、登録すれば誰でも収入を得るチャンスができるツールは、ネットの時代になってかなり増えた。
こうしたサービスを通じて収入を得ることに対して、「○万円以下の収入ならOK」「本業に差支えがなければOK」などの規定を設けている企業はまだ少ない。「自分で言わなければバレない」とこっそり副業している会社員は、実際かなり多くいるのではないだろうか。誰でも副業しやすい時代になったことで、こうしたサービスと企業(とりわけ人事部)はどう向き合っていくのか、考える機会が今後増えるかもしれない。
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