今年はVR(仮想現実)元年だと言われている。既に様々なVR端末が注目を集めており、ソニーが10月に「プレイステーションVR」を発売する。ただ、VRの活用はエンタメ分野だけではない。企業の生産性を効率するテクノロジーとしてもポテンシャルは高い。米マイクソフトがJALと共同開発した訓練プログラムを体験して、そう実感した。

 東京・天王洲にあるJAL(日本航空)本社。会議室に通された記者はヘッドマウント型の端末を装着した。すると、何の変哲もない会議室の机の上に、最新ジェット旅客機「ボーイング787」のエンジンが“出現”した。

ボーイング787型用エンジンのイメージ。整備士訓練用のツールとして開発された。ホログラムは指でつまんで回転させたり、パーツの名称や機能を知ることもできる

 CG(コンピューターグラフィックス)で実物大に再現されたエンジンはリアルそのもの。目の前に浮かんでいるエンジンの後ろに回り込めばエンジンの裏側を眺めることもできるし、下からのぞき込めばエンジンの下側が見える。自分の立っている位置や視線の角度によってエンジンの見え方がスムーズに変わる。それが目の前のCGの現実感をより高めている。

 別のプログラムを立ち上げると、今度は離陸直前のコックピットの中にいた。目の前の計器類はやはりCGで描かれたものだが、自分の手で動かすことができる。このプログラムはパイロットを養成するためのトレーニングツールとして開発されたもの。端末のスピーカーを通じて管制塔からの指示が音声で飛んでくるので、指示に従って計器を操作すると離陸の許可が出る。

ボーイング737-800型機のコックピットのイメージ。運航乗務員訓練生(パイロットの卵)が副操縦士に昇格する訓練を想定して開発された

 これは米マイクロソフトのホログラフィックコンピューター「Microsoft HoloLens」(以下、ホロレンズ)だ。現状はDevelopment Edition(開発者向けセット)として米国とカナダのみで販売している。価格は3000ドル(約33万円)。高いか安いかについては後ほど詳しく触れるが、デバイスとしての完成度は高い。

マイクロソフトが開発中の「Microsoft HoloLens」。表面に複数のデジタルカメラが内蔵されていて、装着者が仮想空間のどの位置にいて、手がどのように動いているかも把握している(写真:北山 宏一)

 ホロレンズの最大の特徴は、ヘッドマウントディスプレーのような端末を被ると目の前に3次元ホログラムが出現すること。目の前を覆っているゴーグル部分は半透明になっていて、自分が見ている現実の視界の中にCGで描いたホログラムを混在して表示できる。冒頭の例で言えば、会議室の机の上に787のエンジンが浮かんで見える。

 これをMixed Reality(複合現実、MR)あるいはAugmented Reality(拡張現実、AR)と呼ぶ。映画「スターウォーズ」の第1作(エピソード4)でR2-D2がレイア姫のホログラムを映し出す有名なシーンがあるが、ホロレンズを使えば同じような体験ができる。

 MRやARも最近何かと注目されているVirtual Reality(仮想現実、VR)の一種だ。ただ、ホロレンズは現実の視界の中に必要な情報を「追加」することを主眼に開発されている。その点が、他のVR端末との大きな違いだ。