『仏作って魂入れず』にしないための3つのルール

 ただし、制度やツールをいくら用意しても、実際の運用がうまくいかなければ、社員の働き方は変わらない。テレワークは、職場のメンバーが離れて仕事をするため、仕事に支障が出ないように、互いの意思疎通や情報共有を密にする“仕掛け”が欠かせない。「仏作って魂入れず」にならないために、どんな工夫をしているのか。鈴木社長も実践しているという3つのルールを教えてもらった。

 1つ目のルールは、上司は自分の部下1人ひとりに対して、毎週最低1回はグループウェアを使って「仕事で困っていることはないか」、“声掛け”をすることだ。会社で顔を合わせている時間が少なくなる分、定期的にコミュニケーションを図ることをルール化しているのだ。

 「『あの仕事大丈夫?』『手伝えることはある?』と上司から1人ひとりの部下にメッセージを送ります。部下を持つ社員には、どんなに忙しくても、これだけは『義務』としてやってもらっています。忙しそうな上司に対して、相談を持ちかけづらいと感じる社員もいます。だから、上司から部下に声を掛けることをルールにしているんです」。鈴木社長も毎週、10人近い直属の部下全員に“声掛け”をしているという。上司がメッセージを送り忘れていると、グループウェアの画面に自動でアラートが表示されるように設定してあるので、うっかり忘れを防げるという。

 2つ目のルールは、1つひとつの仕事の「ゴール」を職場でしっかりと話し合い、明確に定めておくことだ。「何のために、何を、誰が、いつまでに、どこまでやるのか」といったような、仕事の“成果物”の内容を、上司と部下、一緒に仕事をする社員同士で議論して、事前にできる限り具体的に決めておく。そこをあらかじめお互いがきちんと共有できていれば、オフィスで常に顔を合わせていなくても、大きな認識の齟齬は生じないというわけだ。

 「同じ空間にいるだけで、仕事の目標をなんとなく共有している気になってしまうことがままあります。でもこれは大きな落とし穴です。逆説的なのですが、テレワークに本気で取り組むことで、かえって仕事の方向性をしっかりと議論し、共有しようという意識が全社的に高まりました。このことは事業のあらゆる側面で、競争力につながっていると思います」

 最後のルールは、「仕事時間」と「プライベート時間」をしっかり切り分けることだ。グループウェアを使っていつでもコミュニケーションできる環境を整えたことで、会社という空間に縛られなくなった半面で、社員はいつでもどこでも“職場”とつながっていることになった。テレワークに取り組む企業が必ず直面する“副作用”だ。

 そこで、同社ではグループウェアで、自分が現在、連絡が取れる状態かどうか表示する「プレゼンス機能」を積極的に使うことで、仕事の連絡に邪魔をされないプライベートの時間を確保できるように、お互いに配慮している。

「緑」(連絡を取れる)、「黄」(取りにくい)、「赤」(取れない)というように、色で自分の現在の状態を表示する「プレゼンス機能」を積極的に使うことで、仕事の連絡に邪魔されない「プライベート時間」を確保する。

 プレゼンス機能とは、右の写真のように、「緑」(連絡を取れる)、「黄」(取りにくい)、「赤」(取れない)というように、色で自分の現在の状態を表示する機能。「食事中」「移動中」「自宅作業」などとより具体的に自分の状態を表示することもできる。「社員同士、相手の様子を意識しながら、「今は不要不急の連絡は控えよう」といったように、気持ちよくコミュニケーションできるように気配りをしています」。

 柔軟な働き方を実現するテレワークを本当に根付かせるためには、制度やツールを整えるだけでなく、社員全員がこうした細やかな“ルール”まで共有することが重要だということが分かった。

 鈴木社長は、「私も子育てしていた頃は、体調を崩した子供を家に残して会社に行かなければならないといったことが何度もありました。でも、そんな時は、子供の様子が気がかりでいい仕事なんかできなかった。同じような思いをうちの社員にはしてほしくない」と話す。

 仕事と家庭の狭間で格闘してきた女性社長ならではの覚悟を感じた。