熊本地震ではこれまでの震災と同様に、ゴミの問題が浮上している(写真:毎日新聞社/アフロ)
「熊本地震の被災地に支援物資を運び、その帰り道にゴミを運ぼうとしたが、断念せざるを得なかった。目の前にゴミがあるのに、帰りはカラ。非常に悔しい」
被災地に大量の支援物資を運んだある支援者から、そんな話を聞いた。そこで記者は、ゴミ処理についていろいろと調べた。結論として、現行の枠組みで民間事業者がゴミを持ち帰ることはできないこともないが、それを実現するためには自治体からの要請や諸条件のクリアが必要となり、かなり難しい。
「全国の自治体や事業者の皆さんのご協力、市民の皆さんのご協力によりごみ処理を進めていますがまだ厳しい状況です。熊本市HPをご覧頂きルールを守りお出し下さい。よろしくお願いします」
連休明けの5月14日、熊本市の大西一史市長はツイッターにこんな投稿をした。甚大な被害があった熊本地震。その「ゴミ問題」は、いまだに尾を引いている。
実現しなかった「360トン」のゴミ回収計画
環境省によると、一連の地震で発生したがれきなどの災害ゴミの量は最大で130万トン。熊本県内に設置された41箇所の仮置き場のうち3~4割が既に満杯となり、受け入れを制限している。
これに輪をかけて問題となっているのが生活ゴミだ。避難生活や断水などの影響で、使い捨て容器や生ゴミが大量に発生。県内の処理施設の多くが被災し、処理能力が激減していることも手伝い、そこかしこで災害ゴミと生活ゴミがうず高く積み上がっている。最近では、気温の上昇とともに異臭を放っているという。
全国から自治体が応援に駆けつけている。5月16日からは大阪府堺市が職員7人とパッカー2台で支援。画像はそれを伝えるツイート
こうした状況を改善しようと、九州を中心に全国の自治体がゴミ回収の「パッカー車」や作業員を派遣。その応援部隊とともに、地元自治体が懸命な収集作業を続けている。収集だけではなく、福岡市や久留米市、長崎市、大牟田市などは生活ゴミを持ち帰り、処理までしている。それでも追いつかない。
こうした状況を見かね、少しでもゴミ処理に貢献できないかと考える民間の支援者は多い。20フィートコンテナ18本分もの支援物資を自前のルートで海上輸送するという前代未聞の支援を行った、ツネイシホールディングスの取締役専務を務める神原弥奈子氏もその1人だ。
冒頭のコメントは、神原氏の言葉。「やろうと思えば360トンものゴミを回収できた」と悔しがる。
ツネイシホールディングスは、広島県福山市を地盤とする造船大手。傘下に海運会社も抱えており、物流のノウハウもある。4月16日の本震から2日後の18日に被災地支援のプロジェクトを社内で立ち上げ、翌19日からフェイスブックなどを通じて支援物資の募集を開始した。
すると、わずか数日で、地元の広島県下の自治体、江崎グリコやキッコーマンといった大手企業、起業家団体などから12万食分の食料や生活用品が集まった。約20トン積載可能な20フィートコンテナ、計18本分もの支援物資を積んだコンテナ船が、20日と23日の2便に分けて、福山港から鹿児島県の志布志港を目指した。
4月23日、福山港で積み込まれる20フィートコンテナ。鹿児島県の志布志港を目指した
鹿児島から熊本への北上ルートを選んだのは道路事情が良かったため。熊本県の三角港を使うより、「トータルで10時間も時間を短縮できた」(神原氏)。陸路はグループの物流会社のトレーラーなどを駆使。ソーシャルメディアなどで物資が足りていない避難所の情報を集め、20箇所以上に善意を運んだ。
同時に画策したのが、復路でゴミを運ぶというもの。「往路は満載のコンテナが、復路は空っぽになる。自然と浮かんだアイデア」と神原氏は振り返る。地元の焼却施設に運ぶ、あるいは、それが無理ならゴミを満載にしたコンテナを再度、コンテナ船に積み、福山港まで運び、グループ内の産業廃棄物処理施設で処分する、ということまで考えた。
ところが、知り合いの国会議員やツネイシグループの社内に相談すると、「無理です」との答え。ゴミの運搬や処分を規制する「廃棄物処理法」が壁となった。
「逆に住民などに迷惑をかけることになる」
「廃棄物を勝手に運搬する、あるいは処分するのは違法です」「グループ内の処理施設は産業廃棄物の処理のみ許可が降りており、一般廃棄物を処理すれば営業停止になる」……。
周囲から、そう総スカンを食らった神原氏は、やむなくゴミの持ち帰りを断念したというわけだ。この話を聞き、環境省廃棄物対策課に問い合わせると、以下の回答があった。
「事業者が自治体からの業務委託を受けずにゴミを運搬しただけで法律違反となる。処分も同様。災害時だろうが、適正処理が原則」。
周囲の反対が裏付けられた格好だ。では、どうすれば持ち帰ることができたのか。廃棄物対策課は言う。「持ち出す自治体と、それを搬入する自治体からの許可と委託があれば可能です」。
廃棄物処理法の第7条にこうある。「一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならない」。
今回の場合、熊本市や益城町などゴミを持ち出す自治体、そして、船から降ろす予定だった福山市からの許可・委託を受ければ、運搬はできた。しかし、前者の被災自治体から即座に許可・委託を得るのは不可能に近い。
許可・委託には、条件がある。最も重要となるのが、ゴミの飛散や液漏れを防ぐパッカー車など、安全に運搬できる環境が整っているかどうか。「運ぶ環境が整わない中でやってしまうと、逆に運搬経路の住民などに迷惑をかけることになる」(廃棄物対策課)。
こうした条件にかなっているのかどうかの判断や責任は各自治体に委ねられているが、職員も被災し、人命救助や避難生活支援などに追われるなか、短時間で答えを出す余裕はない。
実際、神原氏は「被災地廃棄物の回収のご提案」という書面を熊本県下の各自治体へFAXで送信したが、「遠慮します」という回答が1つの自治体からあったのみ。他から返答はなく、FAX自体がつながらない自治体もあったという。
民間の善意のパワーを生かせる枠組みを
確かに、ゴミ運搬の環境が不整備だったり、ノウハウがなかったりする事業者が運ぶことで、道中を汚すことがあってはいけない。しかし、今回のような震災時において、平時のルールを厳格に適用することがいいことなのかどうか、記者には疑問が残る。
東日本大震災でも、今回の熊本地震でも、民間の善意の結集が大きな威力を発揮することを証明した。特に「物資を調達する・運ぶ」ことは、国や自治体のそれを凌駕している。このパワーを「ゴミを運ぶ・処理する」ことにも活用できれば、少なくとも被災地の環境は現状よりも改善できていたはずだろう。
これを教訓に、例えば、災害時に限り、防護シートなどで簡易的にゴミの飛散や液漏れなどを防げばゴミを運搬できる枠組みができないものか。あるいは、産業廃棄物処理施設が例外的に一般廃棄物も処理できるようにならないものか。リスクを恐れ、民間の善意を活用できない一方で、ゴミの腐敗などによる衛生問題というリスクが増大している。
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