確かにコンセプトは冒頭の悩みを抱える記者の求めていたものに近い。果たして実力はどうか、実際のデモを見せてもらった。ユーザーがELIを身に着けて数分間日本語を話すと、スマホの画面には音声認識し自動翻訳された英語の文章が表示される。するとユーザーが良く使う単語や文章が表示されてスマホに向かって発生練習するという流れだ。試作品のため認識しないこともあったが「思ったよりもスムーズに動く」という印象を受けた。

 開発を発表したのは今年3月。世間に公開したのも直後に米テキサスで開催されたスタートアップ関連のイベントなどに限定される。にもかかわらず国内で問い合わせが相次いでいるという。「英会話の運営会社からの問い合わせもあるが、個人から『monom』の投稿フォームに『すぐにでもほしい』という声もあった」と小野氏はうれしい悲鳴を上げる。

 最終的には日中(8時間程度)の会話を収集し、帰宅後にデータを解析して15分程度の英会話レッスンを行うという利用シーンを想定する。「まだ試作品で完成度は30%程度であり、端末仕様や端末とスマホ間のデータやり取りのタイミングなど取り組むべき項目は多い」(小野氏)という。

 英語に苦しむビジネスパーソンの興味を引きそうなELIだが、ここで一つの疑問が湧く。なぜ、広告代理店である博報堂がもの作りに取り組むのかということだ。

変革期を迎える広告業界

 博報堂が身を置く広告業界は変革期の真っただ中だ。デジタル化が進んだことで、広告の作成や枠の獲得といった従来のビジネスモデルに加えて、ビッグデータを活用した広告効果の分析、さらにはそれを生かしたマーケティング戦略や商品企画などのコンサルティングを手掛け始めている企業もある。米IBMや米アクセンチュアなどの異業種もデジタル広告分野へ参入している。データ解析やコンサルティングなどそれぞれの得意分野を生かし業種拡大を急いでいる状況だ。

monomの小野直紀プロダクトデザイナー
monomの小野直紀プロダクトデザイナー

 「博報堂自身がメーカーになるわけじゃない。だがモノづくりの経験はわれわれが目指しているマーケティング面の強化につながる」と小野氏は語る。つまり、博報堂の本業の大きな武器に繋がる可能性があるということだろう。

 monomが発足したのは15年2月で、ELIは博報堂が手掛ける第4段の開発品だ。これまでは手のひらサイズの対話型ロボット、家族写真を撮影日と同じ日に映し出す置き時計、スマホと連携してぬいぐるみから音声を出すボタン型端末などを試作してきた。

 共通点は「既存の技術をうまく活用して半歩先の未来をつくることだ」(小野氏)という。開発したELIでは音声認識や自動翻訳はグーグルの技術を活用、端末に搭載する技術も無線や電池など世の中にないモノを使っているわけではないという。アイデアやコンセプトを重視し「技術開発をしない」(小野氏)というのは、メーカーにならない理由の一つと言えるだろう。

 ただしmonomで手掛ける開発品が製品化されないわけではない。第3段のボタン型端末「Pechat(ペチャット)」は博報堂として昨年末に発売に踏み切った。現在は家電量販店など全国400店舗で販売されており、子育て世代を中心に想定の倍以上となる数万台規模で売れているという。

 個人的に気になるのがELIの今後だ。製品化については「Pechatのように博報堂として出すのか、誰かと組むのかは決まっていないが製品化は前向きに検討している」(小野氏)という。ただPechatとは異なり、英会話学習は「端末を売って終わり」というサービスではない。サービス展開の経験は新たなノウハウ取得に繋がるだけに、博報堂がどういった判断を下すのか注目だ。