「モノがたくさんある」だけでは人は来ない

 阪急うめだ本店のコンセプトは「劇場型百貨店」。これは2002年、当時阪急百貨店の社長だった椙岡俊一氏(現エイチ・ツー・オー・リテイリング相談役)が、百貨店に対して社会が求める役割の変化を踏まえ、今後のマーケットにどう向き合うのかを考え抜いた結果として提唱したフレーズだ。

 背景には日本の少子高齢化・人口減少による客数減と、消費者の「モノ離れ」がある。客数減については言うまでもないが、「モノ離れ」とはどういうことだろうか。

 これは、モノがあるだけではお客が来なくなってしまったことを指す。モノが不足していた時代は、モノを豊富にそろえることで集客できたが、モノがあふれている今の時代は、そうはいかない。

 一昔前までは、珍しいモノ、高価で質の高いモノの品ぞろえが百貨店の売りだった。他では手に入らないモノの「珍しさ」「美しさ」「機能の高さ」に人々は惜しげもなくお金を使った。しかし、安くて良いモノがたくさん手に入るようになった今、こうした、モノの「見える価値」は競争力を失いつつある。

 そこで、阪急うめだ本店が着目したのが「見えない価値」を売ることだ。具体的には、モノの由来やストーリー、使い方といった「文化的価値」に重きを置いてモノを売ることでもある。文化的価値を人々に伝えることが、これからの百貨店の役割になるだろうと考えたのだ。

 モノの文化的価値を伝える場所、拠点が「劇場型百貨店」になる。行けば何かワクワクするようなことが起こる場所、話題の場所になることで集客し、そこでモノが売れればいい――。そう考えたわけだ。

 600億円を投じ7年かけて建て替え、2012年11月にグランドオープンした阪急うめだ本店には、「劇場型百貨店」を感じさせる工夫が多く見られる。観客が舞台を囲むように座ることができる、吹き抜け階段を設けた「祝祭広場」と呼ばれるイベントスペースがその代表例。加えて、催事や展示ができるスペースを各フロアに設けた。