遺伝子解析を受注するタカラバイオも、2015年4月から一般企業からの受注を始めた。それまでは製薬会社などの研究施設からだけ受注していたが、問い合わせの数が増加したため、一般企業向けのサービスを開始した。始めてから間もないが、受注の数は「飛躍的に増えている」(タカラバイオ)という。

 森永乳業も腸内フローラに注目する企業の一つだ。2015年7月に「腸内フローラ研究部」を立ち上げた。40年以上乳酸菌を研究し続けている同社でも、「今までビフィズス菌に整腸作用があるというところまでは分かっていたものの、実際にビフィズス菌が腸の中でどのようなことをやっているのかといったような細かいことは分かっていなかった」(森永乳業の基礎研究所腸内フローラ研究部・小田巻俊孝部長)。

「あなた専用ヨーグルト」が可能に

 研究を進めることで、どのような人がどのような細菌を補充するヨーグルトを食べれば良いのかといったことが判明してくるという。「極端な話、同じヨーグルトを食べたとしても人によってその効果は異なる。もしかしたらヨーグルトを必要としていない人もいれば、あるタイミングでは必要だけど通常は要らないとか、乳酸菌の中でもAという乳酸菌を採った方が良い、とか、より細かいことが提案できる時代になってきた」(小田巻氏)という。

森永乳業は40年以上の研究蓄積を活かし、より深度の高い腸内細菌研究を行う。写真は、マイナス80度で腸内細菌を保管する冷凍庫

 「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」といった区別で語られることが多かった腸内細菌だが、そうした区分も有名無実化しているという。そもそも「善玉」と言われていたものが場合によっては「善行」をしないことがあったり、善玉菌:悪玉菌:日和見菌の割合は2:1:7がベストとされてきた比率も人によって「ベスト」な割合がまちまちだったりすることも最新の研究で分かってきた。

 腸内細菌の種類や機能の「解像度」が上がることで、大まかな区分やそれにとらわれることがあまり意味を成さなくなってきているのだ。「ある人にとってはビフィズス菌が10パーセントいると調子がよくても、ある人にとっては10%だと多すぎるという場合もあり得る」(メタジェンの福田氏)。

 国立がん研究センター研究所でも大腸がんと腸内細菌の関係を分析中だ。既に1600の便を収集し、目下解析を続けているという。健康診断などで実施される通常の検便では、血が出ているかどうかを見ているケースがほとんど。血が出ていると大腸がんの恐れあり、という診断になるが、そう診断された人の中で最終的に大腸がんと診断される発見率は2~4%だという。「たまたま切れて血が出たり、痔だったりというケースが多い」(同研究所の谷内田氏)。

 ところが腸内フローラの解析が進めば、今より発見率を10倍以上に上げられる可能性があるという。便の中に特定の腸内細菌がいることが分かれば、大腸がんの発生を予見することもできると期待されている。

 研究が進めば、未病に役立つサプリメントや食品が数多く出てくるだろう。さらに、「あなたに適した腸内細菌を集めたヨーグルト」といった商品も実現できるはずだ。

 特に、「糖尿病や肥満といった“現代病”や日本で増えているがんは、食生活の変化が原因のほとんどとも言われる」(国立がん研究センター研究所の谷内田氏)。食事や生活習慣の欧米化の影響が強いとされ、腸内フローラの解明によって増え続ける疾病を減らせる期待も高まる。最新の研究では、良質な腸内フローラを持つ人の便を潰瘍性大腸炎の患者に移植することで、治癒したという臨床結果も報告されている。

 採便すること自体のハードルは未だ高いが、自分の健康にとって最も有益な情報源であり、万能薬になると分かれば、心理的なハードルが下がる可能性は高い。「汚い」「不要」と見過ごしていたものが、見直される時代はすぐそこまで来ている。

■訂正履歴
設立年月日を2015年2月としていましたが,2015年3月です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2016/4/15 16:54]