例えば、日本人がインドに行ってお腹を壊すのに、インド人は何食わぬ顔で同じものを食べているというのはよく聞く話だ。これは何も日本人が「お腹が弱い」のではなく、インドの食生活に適した腸内細菌を生息させていないためだ。そのままインドで食生活を続ければ、次第にその食生活に適した腸内細菌環境ができあがり、お腹を壊さなくなる可能性が大きい。

 この腸内細菌の生態系全体を指す言葉が「腸内細菌叢(腸内フローラ)」だ。腸内フローラにおける細菌の多様性が、腸内環境の健全性と直結するとも言われ、腸内フローラを構成する細菌の数や種類が、罹患率や免疫力、脳の働きといったことに影響を及ぼしていることが分かってきた。だからこそ、腸内フローラに注目が集まっているのだ。

 メタジェンは、細菌の遺伝子情報を網羅的に取得し、さらに細菌が排出した腸内の代謝産物の情報を組み合わせて、細菌の機能把握を試みている。「既に大腸がんや動脈硬化、花粉症や糖尿病といった病気の原因となる腸内細菌が判明しつつある」(メタジェンの福田真嗣社長)。

 腸内細菌と疾患の関連性を解き明かすことができれば、食生活や生活環境を改め、罹患率を下げることも夢ではない。「体温や血液検査のように、検便が自分の体調を知る重要な指標になる日がくるはず」(メタジェンの山田拓司副社長)。1カ月に1度、半年に1度、定期的に検査をすることで、未病に役立つ可能性が大きいとなれば、ビジネスチャンスも広がるだろう。メタジェンは2年後にも、一般消費者向けに簡単に自分の腸内フローラを検査できるサービスを開始したいとしている。

「全遺伝子解析」が拓いた腸内細菌の未来

 腸内細菌の遺伝子研究は「次世代シーケンサー」という全遺伝子解析装置によって一気に加熱した。2000年代後半に米イルミナなどによって市場に投入されたもので、マシンパワーの向上によってその後も低価格化と高速化が進んだ。

 DNA100万基を読み取るコストは、2010年当時1ドル弱だったのに対し、現在は、0.1ドルを切る価格となっている。コストのハードルが下がったことで、細菌の遺伝子解析の研究や周辺ビジネスが同時並行で開花してきた。

 腸内フローラに商機を見いだそうとしているのはメタジェンだけでない。例えば、ベンチャー企業のサイキンソーは自宅で簡単に腸内環境を検査できるキットを開発し、2015年11月にサービスを開始した。

サイキンソーが提供する簡易採便キット「マイキンソー」

 サイキンソーのウェブサイトで採便キットを購入し、送られてきたキットで便を採取し、送り返せば6週間後には結果をウェブ上で確認できる。現時点では、太りやすさや腸内細菌の多様性、菌の構成といった限られた情報だが、「世界中で研究が進んでいる分野のため、今後は疾患との関係性なども提供していけるはず」(サイキンソーの沢田悠代表取締役)という。価格は1万8000円だが、サービス開始以来、1000件以上の申し込みがあったという。