1年以上前のことだ。遺伝子解析を手がける企業の社長が「今注目している企業があるんです」と教えてくれた会社があった。名前はメタジェン。「鶴岡がまた出してきたな、という感じで。冨田先生はやっぱりすごいです」という。

 鶴岡、とは山形県鶴岡市にある慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)。バイオテクノロジー分野で国内トップレベルの研究所だ。冨田先生、とはこの「鶴岡」を率いる冨田勝所長のこと。そのIAB発のベンチャーとして2015年3月に設立されたのがメタジェンだ。

 IABからは過去にも、いくつかのベンチャー企業が巣立っている。人工クモ糸繊維を開発したスパイバー、血液の代謝物質からうつ病のバイオマーカーを見つけ出すヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ、唾液からがんを発見するサリバテック。すべてIAB発のバイオベンチャー企業だ。ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズは既にマザーズ上場を果たしており、慶大から出た上場ベンチャー第1号でもある。IAB発のベンチャーとして4社目となるのがメタジェンだ。

腸内細菌の「個性」を探索

 メタジェンが着目したのは、人の便。便に含まれる腸内細菌を採取し、その遺伝子を解析する。疾患や免疫、脳との相関関係などを明らかにすることを目的にしている。

 冒頭の社長が行うビジネスはヒト遺伝子の解析だ。ヒトの遺伝子は一生変わらないため、ビジネスとして見た場合「一度しか検査してもらえないので、うま味は少ない」とも言われる。人間同士の差異は1%以下で、残り99%は皆が同じ遺伝子を持っている。

 一方、腸内細菌は100兆個以上もいて、その種類は100種類を優に超える。人の乾燥便1グラムだけで、腸内細菌は1兆個程度潜んでいるとされるが、その働きが明らかになっている腸内細菌はいまだ1%程度にとどまる。そのうえ、腸内細菌は「人によって99.9%異なるため、個性がある」(国立がん研究センター研究所の難治がん研究分野・谷内田真一ユニット長)。家族同士でも違えば、年齢や居住する国などが違えばその差は歴然だ。

乾燥便1グラムに1兆個の腸内細菌が潜む(左)。一般的に広く知られる腸内細菌としてはビフィズス菌(右)や乳酸菌がある。

 さらに、腸内フローラを詳細に分析すると、常に変化を繰り返していることが分かってきた。その人の生活環境に適した状態を作り、その適正環境が何らかの原因によって崩れたときに、体調不良に陥ることなどが判明した。