星﨑氏の問いかけは、まさに「1000本ノック」。移動車内でも次々に質問が飛んでくる。なぜ、ここまで問いかけるのか。それは、社員の思考力を鍛えるためだ。質問に答えるためには、正確なデータを持っていなければならない。さらに、そのデータをもとに次の行動をどうするか、ということも考えなければならない。

 「眼鏡業界は思考停止している」と星﨑氏は言う。「並べれば売れる」時代が長く続いたため、考える癖がない。さらに、オーナー家によるトップダウンの経営が多いことも、社員の思考を奪った。星﨑氏がトップに就任した当時、メガネスーパーも例外ではなかったという。だからこそ、問いかけを重ねることで、「考える人材」を育てる。

 移動車内であっても問いかけを続けるのは、「高速でPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回す」(星﨑氏)ことが大切だからだ。再建に時間はかけられない。

 課題があればすぐにその原因を追究し、解決策を考える。解決策を考えたらすぐに実行する。実行したらその成果を具体的な数字をもとに検証する。このサイクルを高速で繰り返すため、移動する車内でも問いかけはやめない。

 車内でも話し合いを続けるために、いたるところに工夫を施している。星﨑氏の問いかけが車内全部に届くよう、車内にはスピーカーを2台設置。分乗して移動するキャラバン隊同士がいつでもやりとりできるよう、すべての車を無線でつないだ。日が落ちても車内で資料を確認したり、メモをとったりするために、手元を照らす小型のライトも常備している。

移動車をつなぐ無線

 メガネスーパーを取材していると、まるで会社全体が一つのスポーツチームのようだと感じる場面がいくつもあった。星﨑氏という監督がいて、社員という選手を鼓舞しながら「経営再建」という目標に向かって走っている。キャラバンはまさにその象徴だ。

 星﨑氏は、会社の戦略を考えると同時に、このように現場にも入りこみ戦略の徹底を図っている。1カ月の取材の中で記者は最後まで星﨑氏のスーツ姿を見ることはなかった。

 星﨑氏の姿勢は、「現場が見えない」と悩む多くの企業にとって示唆に富むだろう。

 だが、星﨑氏の「現場力」が高すぎるのも、徐々に課題になってきているのかもしれない。現場の人材が育ってきているとはいえ、どこか「星﨑氏頼み」の雰囲気はある。それについて危惧する声もあり、「星﨑社長の後継となるような人材が育っていないのが課題」と記者につぶやいた社員もいた。

 会社が永続的に続くようにするには、やはりどこかで組織としての体制を整えなければならない。1人のカリスマに頼るのではなく、トップが変わっても永続的に続く会社をつくるのが、これからのメガネスーパーの課題かもしれない。