ベンチャー企業の流入が相次ぐ東京・五反田。渋谷の「ビットバレー」に続けとばかりに「五反田バレー」の構想が動き始めた。しかし、家賃の上昇に伴い既に次の適地を探す動きも起きている。かつて夜の街のイメージが強かった五反田がベンチャー集積地に変わったことで、地名のブランドにこだわらない流れができつつある。

 「商店街や地域のお祭りと、会社の福利厚生を連携させられないか」「いずれはビジネスマッチングの仕組みも作りたいですね」−−。昨年末、東京都品川区の五反田駅近くのオフィスビル。クラウド会計ソフトのfreeeの本社で忘年会を兼ねた会議が開かれていた。freeeや五反田に本店を置く城南信用金庫、区役所、地域の商店街や中小企業の関係者、多彩なメンバーが膝を突き合わせて話していたテーマは、freeeの佐々木大輔CEO(最高経営責任者)らが提唱している「五反田バレー構想」だ。

 freeeが麻布十番駅周辺から五反田に移転したのは2014年。その翌年から、ベンチャー企業が五反田に徐々に集まりだした。ベンチャーのオフィス移転の支援を手がけるヒトカラメディア(東京・渋谷)が過去2年に関わっただけでも、個人の経験や技の取引を仲介するココナラ、AI(人工知能)による営業支援のマツリカなど約25社が五反田へ流入してきた。

ベンチャー企業の集積地となった五反田
ベンチャー企業の集積地となった五反田

 東京におけるベンチャーの集積地といえば、ビットバレー構想を推進する渋谷だろう。しかし、家賃が高い。ヒトカラメディアによると、渋谷駅周辺のオフィス物件の坪単価相場は2万5000〜3万円(昨年末時点、以下同)にも上る。そのため、渋谷の周辺の街も候補になる。ヒトカラメディアの田久保博樹取締役は「目黒、恵比寿の物件を紹介するとオーケーが出ることが多い。でも、五反田まで行くと、3年前までは『あ、それはちょっと・・・』という反応だった」と振り返る。

 反応の理由は、駅東側の一角に立ち並ぶ性風俗店。これが五反田は夜の街だというイメージを植え付けていた。しかし、その点に目をつぶれば、五反田の街としての魅力は高かった。

 まずは家賃。同社によると、坪単価で1万5000〜2万円。例えば五反田駅徒歩2分で坪1万5000円の物件もある。スムーズに電車に乗ることができれば、渋谷駅までは10分とかからない。一方、渋谷なら駅徒歩10分の物件でも坪2万5000円かかることはざらだ。

 そして交通の便。東海道新幹線の停車駅である品川駅までは山手線で2駅。成田国際空港や羽田空港へのアクセスもよい。

 freeeの定田充司マネージャーは「実は五反田は暮らしやすい街でもある」と指摘する。定田氏含め、多くの同社社員が五反田周辺から自転車などで通勤しているという。このため、freeeは入居するビルの1階を改装して駐輪場をあつらえた。「駅前にはスーパーも100円ショップも家具や雑貨が揃う商業施設もある。家電やブランド物が欲しければ、渋谷まで出ればいい。何より、安い居酒屋や定食屋が多いことが、若い社員が多いベンチャーにはありがたい」(定田氏)。