利益を確保するという面からみれば、一見無駄に見える投資の見直しは効果的な策だ。だが成長に対する期待という面でみると、赤字幅の縮小は必ずしも評価されない。利益は拡大しても成長期待は後退してしまう。記者にとってその象徴的な存在がKoboだ。この事業に対する先行投資の拡大や減損リスクを財務面から不安視はしていたが、購入できる書籍を増やし、割引クーポンを次々と発行し、顧客を引き付けてきたKoboの勢いを、記者は一消費者として肌で感じていた。だが楽天がKoboのコスト改善に乗り出した今、その勢いは感じづらい。

 「リスクが大きい博打を我々は打たない。三木谷浩史会長兼社長は(財務に敏感な)銀行出身だからね」。ある楽天の幹部はこう語る。その性格からすれば、先行投資期間が長く、赤字を垂れ流し続ける新規事業に資源を大きく投入することを避けようとするのかもしれない。「物流は直接利益を稼ぐ事業ではないし、コスト回収にも時間がかかる。だからROI(投資利益率)が悪いと指摘され、計画の見直しを経営陣から迫られた」。こう明かす関係者もいる。

 楽天のスタンスと対照的なのがアマゾンだ。同社は日本で大型物流拠点を矢継早に整備し、足元では1時間配送を実現するサービス「プライムナウ」専用の拠点も次々と増やすなど、先行投資を拡大する姿勢を鮮明にしてきた。この影響から、同社の利益水準は常に低く抑えられている。2015年12月期の最終損益は5億9600万ドルの黒字だったが、前の期は2億4100万ドルの赤字となるなど最終損益は赤字と黒字を繰り返している。それでもアマゾンの株価は一貫して上昇傾向にある。

 通販をはじめとしたネット関連事業はグローバルで市場自体の急成長が見込める分野だ。そのため、市場拡大ペースを上回って企業が成長できるかどうかがポイントになる。売上高の成長や顧客の獲得が高水準で実現できていれば、利益は後回しにしても評価されやすい。新規投資を止めてコストを削減すれば利益は出るという考え方が根底にあるからだ。アマゾン脅威論が広がりやすい主因もここにあるだろう。利益を犠牲に成長を重視するアマゾンの勢いと、財務の安定性を重視しているように「見える」楽天とを比較すると、アマゾンの勢いが一層鮮明になる。そして、アマゾンの勢いに楽天が「飲まれてしまう」という不安が広がる。つまり脅威論、悲観論は楽天とアマゾンを比較した際の規模の差にあるわけではなく、事業投資に対する姿勢の差に根付いているわけだ。