「ペリカン」と描いた甘い夢

 ではなぜ、日本郵便がコストを度外視した営業に走るようになったのか。そこには“シェア20%の誘惑”が見え隠れする。

 話は2007年、日本郵便(2012年までの名称は郵便事業会社)の親会社である日本郵政と、日本通運が提携し、のちに共同出資で物流会社「JPエクスプレス(JPEX)」を立ち上げたことに遡る。

 JPEXを受け皿として日本郵便の「ゆうパック」と日通の「ペリカン便」を一体化し、ヤマト・佐川を追撃するという青写真は、2007年に民営化したばかりの郵政グループにとって、大きな希望でもあった。

 この頃の宅配便シェアは、ゆうパック8.7%、ペリカン便10.3%。「1+1=2以上」という楽観的な思考もあり、「20%以上」のシェア獲得によって物流事業の成長戦略を示すというシナリオを描いていた。

 結果がどうなったのか、覚えている方も多いだろう。事業統合がうまく進まず、2010年に日本郵便がJPEXを吸収したが、大幅な遅配が発生するなど、現場で大混乱を引き起こした。2011年3月期、日本郵便は1000億円以上の営業損失を計上し、当初のシナリオは崩れ去ったが、社内では「シェア20%」という目標だけが見果てぬ夢として残ったのだ。

健全な値上げが必要

 2015年、郵政グループが株式上場したが、郵便物が毎年のように減少していく中で、日本郵便は成長戦略を描けずに苦しんでいる。

 先ほど言及したように、日本郵便は“シェア20%の誘惑”にかられるたびに、結果として赤字を増やすという経験を繰り返してきた。ようやく、2016年3月期に荷物事業で営業利益8億円を計上し、わずかながら黒字となったばかりだ。再配達や人手不足によるコストアップに苦しむ中、売り上げを無理に伸ばそうとすれば失敗を繰り返すことになるだろう。

 日本郵便は毎年、アマゾンなど大口の契約企業と配送料金の更改交渉を行っている。結果として、実質的な値上げとなる可能性があるが、むしろそれ自体は民間企業として正しい方向ではないだろうか。

 高コスト体質を改善しながら、健全な形でシェアを高める。これを実現できるかどうかは、歴代の日本郵便トップが手を付けてこなかった、抜本的な社内改革に取り組めるかどうかがカギを握る。昨年、日本郵便社長に就いた民間出身の横山邦男氏が、企業経営者としての真価を問われているということでもある。