米経済は雇用、自動車販売は引き続き好調だが、2月の景気指数(PMI)は47.6と前月の55.6から大幅に悪化した。米製造業の低迷が続いているとの見方が急速に広がっている。1月の米仮契約住宅販売指数も市場予想に反して低下した。こうした状況を踏まえてFRBが利上げを打ち止めにするどころか、本心では利下げを志向しているとすればどうなるか。日米金利差は市場の期待とは裏腹に縮小し、安全資産とされる円買いを誘発しかねない。円高・ドル安基調を加速するシナリオが現実味を帯びる。

 仮に110円まで円高が進めば、日本企業の経常増益率はほぼゼロになる見通し。アベノミクスの失速は金融市場のみならず、いよいよ実体経済にまで及ぶことになる。

漁夫の利はキャタピラーか

 トランプ氏の毒舌を複雑な思いで見つめているのは米産業界も同じだ。「円安・ドル高で米国は日本と価格競争ができなくなった」として、トランプ氏がやり玉に挙げた建設機械大手コマツとキャタピラーの関係性も同じだ。

 キャタピラーは油圧ショベルの主戦場と位置付ける中国経済の鈍化で2015年度は営業4割減益を余儀なくされた。従業員1万人のリストラにも踏み切る。コマツとのつば競り合いは広く知られるところだが、トランプ氏が指摘する通り、建機としての性能差はコマツもキャタピラーも大差はない。それよりも成熟した日米の建機市場では価格とアフターサービスの充実度合いが販売に直結する。

 為替相場が純粋に日米の金利差だけで決まるとすれば、マイナス金利まで導入して緩和に躍起になる日銀と、利上げに転換したFRBの落差は当然、円安・ドル高要因となる。米産業界にとっては自国からの輸出採算を悪化させる足かせ以外の何物でもない。キャタピラー副社長のジョージ・テイラー氏は今年1月、記者に対し「建機は(性能で優位性を出しにくい)モノカルチャー製品だからこそ、世界各国・地域での価格・マーケティング政策が勝負の分かれ目になる。2016年の市場環境は私たちが安易に値上げできるほど、楽観的だとは到底思えない」と述べている。

 確かにトランプ氏の発言はユーモアを多分に含み、米大統領選ならではの毒舌に過ぎない。円安への非難は飛び出しても、金融政策や貿易不均衡で明確な主張を打ち出しているわけではない。市場では「トランプ氏は共和党候補にはなり得ても、クリントン氏に勝てる確率は現時点では低いとみられる。マーケットへの影響は無視できる範囲内ではないか」(外資系証券)との見方が優勢だ。

 それでも、ニュージーランドのビクトリア大学が運営するオンライン賭けサイト「プレディクトイット」では、トランプ氏が指名を獲得する確率は直近で74%。クルーズ氏とルビオ氏は12%にとどまり、優劣は明らかだ。FRBや米産業界の本音を汲み取りながら、トランプ氏がしたたかに戦いを進めるのか。11月8日の大統領本選まであと8カ月。市場が新たな懸念材料を背負い込んだことだけは確かなようだ。