和田さんや山下さんはウェブ上の予約管理のシステムを作成。南相馬市の牧場と提携し、飼育されている馬の状況を管理しながら、森林公園や海水浴場で乗馬体験サービスを提供する。

 馬は南相馬市などで開催される伝統行事「相馬野馬追」のために飼育されている。野馬追は鎧武者に扮した住民らが馬に乗って旗の争奪戦などを繰り広げる祭事で、7月の3日間に開催される。

 山下さんによると、住民には10万円程度の参加料が渡されるといい「これが馬により得られるほぼ唯一の収入」だ。かつては農耕馬にも利用していたが「今や野馬追の馬の飼育は文化保護のためのボランティアとなっている」

皐月賞馬を半額以下で

 山下さんはこうした馬の有効活用を模索していた。すると、中にはG1勝利経験もある有名馬がいることが分かる。皐月賞馬のノーリーズンやNHKマイルカップ優勝経験のあるウインクリューガーだ。野馬追に訪れる観光客の中には、引退後までこうした重賞馬を追いかける競馬ファンもいるという。

 また、野馬追に備えて乗馬を嗜む若者が南相馬市周辺には多い。地元学校の馬術部への馬の貸し出しと引き替えに生徒を乗馬の講師役として確保することもできる。森林公園など乗馬に向いた場所も多い。低コストで乗馬体験サービスを提供するにはうってつけの環境が整っていた。

 乗馬体験の料金は検討中だが、「東京の乗馬クラブの半額から3分の1で利益を出せる」(山下さん)という。仙台市や首都圏を商圏として設定するほか、熱心な競馬ファン向けに重賞勝利馬を優先的に利用できる「一口馬主」などの制度もつくる。

 特に線量が高く原則日中も立ち入り禁止の「帰還困難区域」を除き、福島県の避難指示区域は3~4月に解除される。避難対象者に払われ続けてきた1人月10万円の賠償金も解除から1年後に打ち切りとなる。自立を迫られる福島の被災地にとって、雇用の確保が最大の問題だ。

 しかし、除染作業や復興工事の労働需要は徐々に陰りを見せ始めている。国と福島県が沿岸部で高度技術の実証実験などを推し進めている「イノベーション・コースト構想」も「雇用などの具体的成果がどれだけ地域にもたらされるのか分かりにくい」との疑問が住民からは上がっている。雇用の場を生む新たな地域産業の育成は必須だ。シェア馬のようなユニークなアイデアの種が芽吹いていくことに期待したい。