昨年7月、一部地域に出ていた避難指示が解除されたばかりの福島県南相馬市で、一風変わったシェアサービスが始まろうとしている。同市などで開催される伝統行事「相馬野馬追」のために飼育されている重賞優勝馬を使った「シェア馬」。地域に眠る宝を掘り起こし、雇用や賑わいの回復に繋げる。

鎧武者に扮した住民が参加する「相馬野馬追」。中にはG1を制した有名馬もおり、乗馬体験サービスに利用する。

 「この街はね、避難指示の解除で世界でも類を見ないスピードで人口が増えていくんです。こんなにビジネスチャンスが転がっている場所が他にありますか?」

 腹を括った経営者はこうも力強いものかと感じ入った。1年前、福島県南相馬市小高区を訪れた際、同市のIT企業経営者、和田智行さんから聞いた言葉だ。同区は福島第1原子力発電所から半径20㎞圏内に位置し、ほぼ全域が夜間の宿泊が禁止される避難区域に指定されていた。当時は避難指示解除に向けた準備宿泊の真っ最中だった。

住民ゼロの街の定食屋

 和田さんは2014年、本業とは別に新会社「小高ワーカーズベース」を設立。コワーキングスペースの開設や、公設の食料品店の運営受託など復興事業に係わってきた。加えて、和田さんは電車も通らず住人もいなかった小高で、純粋な商売を始めようとした。「消費の力も労働力も今が底。今商売が成り立てば、解除後も利益を出せる」。ともすればただの強がりにしか聞こえないようなこの楽観論を、和田さんは現実にした。2014年末に避難中のラーメン店「双葉食堂」を間借りし、定食屋「おだかのひるごはん」をオープン。そばやうどんなどシンプルなメニュー構成にして原価を抑え、翌年夏には黒字化にこぎ着けた。

 もちろん、日中に小高で働く除染作業員や復興ボランティアの存在が後押しになっていた。しかし、この成功は小高への帰還者を増やす呼び水になった。双葉食堂は「ひるごはん」の賑わいを目の当たりにして、諦めかけていた店の再開を決意。和田さんも「十分に役割を果たせた」として「ひるごはん」を閉店し、バトンを譲った。創業65年の有名店だった双葉食堂は新たな小高復興のシンボルにもなっている。現在小高区の居住者数は震災前の1割に満たないにもかかわらず、毎日のように店の前に行列ができる。

 和田さんは他にも東京のアクセサリーブランドと提携してガラス工房も開設。一次産業と原発のメンテナンスが主産業だった街に若者向けの新たな雇用の場を作り出そうと模索する。こうした活動の中で、一風変わったシェアサービスが生まれようとしている。和田さんらが主宰したハッカソン(IT技術者らによるアイデアコンペ)で優勝した「シェア馬」だ。南相馬市でアプリ開発会社を経営する山下敏義さんが発案者。山下さんは福島県などによるベンチャー企業のコンテストでもシェア馬で賞を獲得した。