自分で考えて自分で動くことの意味

 2015年12月に発売された4代目の「プリウス」を出荷する直前には、こんなこともあったという。

 「出荷直前にランプのある部分に白い線がチッと(ほんの少し)入っていた。品質的には全く問題はないんだけど、(より良いクルマを効率的に開発して生産できる次世代車両技術である)TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の最初の車種だったからね。何台に1台でチッと線があって、品質には問題ないからいいか、と言う人もいたけど、お客さんが見たらいい気はしないぞと。で、すったもんだになった。そこで僕は彼ら(現場の人たち)に『お前たち、どうする?』って聞いたら、『直す』と言って。金曜日の夜くらいに分かったんだけど、そこら中から組立の人間を集めてきて、490台を2日間で全部直した。白い線は、仕入先さんのある工程でスッと入ってしまうもので、ぱっと見ると割れのように見えるけど割れじゃない。機能には問題ない。でもやっぱり直そうと」

 「最初は部品を取り替えるのに30分かかっていた。クルマを4列に並べて、1台を、周りから4人がかりで作業する。僕も付いとったけど、『1台に30分もかかるんじゃ、とてもムリだな』と思っていた。もし月曜日までに間に合わなければ、通常のラインが止まってしまう。そんなふうに考えていたら、日曜日の終わりには10分になっていた。カイゼンされて。一人が『こっからこうやると簡単に部品が取れるぞ!』と叫ぶと他の人もマネをする。そうやってカイゼンしたら、最後は10分になった」

記者がAIや機械が人間を越えられないと思うワケ

 「日曜日の昼くらいに僕が行ったら、『何しに来たんだ』と言われた。『いや、できているか見に来たんだ』と言ったら、『帰ってくれ、もう終わるから』と。『まあ、そう言わないで見せてくれよ』なんて言ってね。僕はそういう機動力とか、何か問題があった時に現地・現物で自分の持っている工程を全部見直すとか。そういう機動力が大切だと思う」

 長文にお付き合いいただいたが、あえて河合氏の発言を多用したのは、きっと現場に携わっている人なら、そこから多くの「行間」を読み取れると考えたからだ。そして、記者自身もせっかくの機会だったので、行間を読み取ろうと努力した。

 もしかしたら記者が古いタイプの人間だからかもしれないが、河合氏の話を聞いて、「AIや機械は、ある特定の領域では人間を越えることはできない」という結論に至った。それこそが、後輩にあこがれられる技能や知恵であり、「あのオヤジのためだったら頑張ろう」と思ってもらえる人間力であり、危機が起きた時に力を合わせて乗り越えられる機動力なのではないだろうか。

 少し大げさかもしれないが、人間が思わぬ馬鹿力を発揮する時は大抵、誰かを守ろうとしたり、生命の危機を感じたり、誰かの役に立ちたいと心から願ったりするときではないか。生死のない世界にあるAIや機械に、そうした感情が生まれるとは考えづらい。その疑問が残る限り、AIや機械は人間を越えられないように思う。

 河合氏は最後に、少し照れくさそうにこう言っていた。

 「私は人が好きなんです。そこは絶対にそう」

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